住民の「困った」をシェアするフシギな団地の挑戦

脳梗塞の男性も助かった
真鍋 厚 プロフィール

脳梗塞の男性が助かった

前時代には存在した「『困った時はお互い様』のような関係性」という豊かな森は、今や水源地が枯れたり、一部が砂漠化して木々がまばらになっている。しかし、都市部などに「ビオトープ」(野生の生き物が生息する空間)を人工的に作り出せるように、現代に相応しい別様の豊かな森を取り戻すことはできる。

「コミュニティという生態系」をうまく循環させるのに必要なのは、様々なことをシェアすることで初めて成り立つ「連帯感」だ。

菅原さんは、「連帯感がないと、本当の意味での協力体制は取れない」と強調する。

当たり前だが、ただ「同じ地域に居住している」という共通性だけでは、自然と助け合いが発生するコミュニティが立ち上がることは望めない。

「『昔のコミュニティに戻った方が良い』という意見がありますが、昔の社会が必ずしも良いとはまったく思っていないんです。未だに村八分のような排除も起こっていますし。目指すのは、新しい形でのコミュニティ作りなんです」

そこで最も重要視しているのが「よりよく生活するために何があったらいいのか」について、地域の人々を巻き込んで対話を積み重ねていくことだという。だから、常日頃から「誰でも集えて、分け隔てなくコミュニケーションができる」、「ぐるんとびー駒寄」のような拠点が不可欠になってくるのだ。

 

活動開始からまだ2年半しか経ってはいないものの、菅原さんは、予想を超えて広がる人と人のつながりに「手応え」を感じているという。

「団地の中に、やる気のある若者が増えてきているんですよ。3年前は自治会役員の高齢化、担い手不足が叫ばれてたんですが、今は若者が半数以上になっていて、その中には看護職も医療職も入ってきています。

『何かあったら私に相談してくださいね』って言ってくれる看護師の方もいらっしゃいます。とても心強いですよね。不安になった時に、何かあれば『ぐるんとびー』があるから、とシングルマザーの方や、障害を持つ方も団地に引っ越してきたりしています」

つい最近、菅原さんは、住民から電話で「申し訳ないんですけど、うちの主人がおかしいんです」と呼び出されたという。

急いで駆けつけて部屋に入ると、その男性が脳梗塞を起こしていることが分かった。

「話しかけても反応がなくて、手が動かなくなっていたから、これは間違いないなと」

その後、すぐに救急車を呼びスタッフとともに運んだため、大事には至らなかった。これも普段から団地の中で挨拶をしたり、定期的に開催している飲み会で話をする中で、菅原さんや「ぐるんとびー駒寄」のスタッフが「夜中でも、何かあったらうちを頼ってくださいね」と声を掛けるなどして、心置きない関係性ができていたことが大きかった。

「そんな具合に、いろんなことが起こり始めています。生活者として、その地域を良くしたいと思っている人がいて、みんなと悩みを分かち合いながら取り組んでいけば、多くの課題は解決に向かう。それが、最近感じ始めていることですね」

菅原さんのスタンスは、「『困った』をみんなでシェアする。『楽しい』もみんなでシェアする。だけど、シェアしない人がいてもいい」だという。「シェアしない人」には、健康上の理由などにより「シェアできない」人、別のものであれば「シェアできる」人など、住民によって様々な事情があり得ることも織り込み済みだ。

「コミュニティという生態系」を持続可能なものにする上で避けられないポイントがあるとすれば、この「シェアしない人がいてもいい」という「風通しの良さ」を併せ持った、「連帯感」の醸成なのかもしれない。

(つづく)