小規模多機能ホーム「ぐるんとびー駒寄」の一室(筆者撮影)

住民の「困った」をシェアするフシギな団地の挑戦

脳梗塞の男性も助かった

誰もがスマホの画面に没頭し、人と人との直接の「縁」がますます稀薄化してゆく現在。セーフティネットとしての人間関係を再構築するために、先進的な取り組みを行っている「団地」があることをご存じだろうか。「ポスト・コミュニティ社会」を考える著述家・真鍋厚氏の連続レポート。

「ぐるんとびー」とは何か?

失われつつある「地域コミュニティ」の再生は、今や全国各地で「行政的な課題」になっている。

しかし、昔ながらのコミュニティの復活であったり、“お上”から「助け合い」を押し付けるようなものでは、決して上手くはいかないだろう。

なぜなら近年、単身者世帯が右肩上がりで増加していると同時に、「家族」という形態そのものが目まぐるしく多様化しているからだ。そこでは、既存の価値観に囚われない柔軟な発想が求められる。

全国で初めてUR(都市再生機構)の団地の一室にオープンした、小規模多機能居宅介護事業所「ぐるんとびー駒寄(こまよせ)」(神奈川県藤沢市)。2015年7月に産声を上げて以来、「介護」という枠を越えた「地域の支え合いをつなぎ戻す」活動を展開しており、しかもそれが多くの人々から好評を得ている、成功例の一つだ。

小規模多機能居宅介護とは、「通い」(デイサービス)、「訪問」、「泊まり」(ショートステイ)の3種類を組み合わせ、利用者が自宅で自立して生活ができるよう支援する介護サービス。

「ぐるんとびー駒寄」は、高齢者が認知症になっても、ケガをして寝たきりになっても、「輝ける時間」は過ごせる――を合言葉に、そのような生き方が可能となる「町づくり」に積極的に乗り出すなど、他では見られない新しいムーブメントを起こしている。

 

そんな台風の目となっているサービスを立ち上げたのが、株式会社ぐるんとびー代表取締役で理学療法士の菅原健介さんだ。

「団地の7階に会社の事務所があり、6階には小規模多機能ホームがあり、5階にはぼくの自宅があります。4階には妻の母と大学生が同居していて、3階と4階と5階にそれぞれうちのスタッフが住んでいます。さらに、6階のホームではないお部屋で、要介護5の認知症のおばあちゃんと、うちのスタッフが同居しているという感じです。

僕らは、ここでただ介護サービスをやりたいということではなくて、この団地の一住民として『よりよく生きられる場所を作る』という目的意識でやっています」

菅原さんは、団地という集合住宅の特性が「人と人を関わらせる」「気軽に立ち寄ることができる」場所づくりに向いていると考え、小規模多機能ホームが「地域のハブ機能」をも発揮できるよう、「ぐるんと介護セミナー」「ぐるんとマルシェ」「無料健康相談」などのイベントを開催したり、誰でも参加できるコミュニケーションスペースとして開放しているという。

このような、介護サービスにとどまらない新しい地域社会の創出に舵を切ったのは、3・11がきっかけだった。

「日本の文化は『人に迷惑をかけない』が基本。しかも最近だと『困っても、自分で何とかする』が流行みたいになっています。

3・11直後に被災地に入った際、人や物資が足りなかったり、上手く配れていないために混乱が起こっていたんですけど、多くの人が周囲の人に助けを求めず、『わたしは大丈夫』と我慢なさっていたり、行政とか団体にクレームを言っている様子を目の当たりにしたんです。

支援者側が全部縦割りで動いていることも問題だったんですが、普段から『困った時はお互い様』の関係性が築けていないことが背景にあることも見えてきた。

『みんなで助け合えば、もうちょっとなんとかなるんじゃないの?』ということが、日本の社会では意外にもできていないことが分かったんです」

前回と前々回の記事では、「御用聞き」サービスに関する取材を通じて、「家族で助け合う」ことが困難になっている社会状況を確認した。「家族」という社会の“最小コミュニティ”と呼べるものも、実際にはご近所や友人などの「家族以外」のネットワークに支えられており、「互いが互いの不足を補い合う」ことでようやく安定性が担保されるものでしかない。

つまり、一本一本の木に養分を与えている生態系に目を向けなければ、意味がないのだ。