2018.06.27
# 学校・教育 # テニス # ライフ

日本のテニスキッズは「錦織圭」を目指さなくていい、これだけの理由

IMGアカデミー日本地区代表の提言
田丸 尚稔 プロフィール

海外に出ること自体は表層的な要素でしかない

私がIMGアカデミーに籍を置いたのが2015年。この間、様々な長期留学生たちのカウンセリング(というほど堅苦しいものではなく、雑談もたくさんあって楽しい時間)を行なってきた。

IMGアカデミーに中学生あるいは高校生として留学し、海外でスポーツにチャレンジし、英語を駆使して世界中の人々とコミュニケーションする。こう言うと、“教育”という観点からも、なんだかとても立派で意義のあることのように響くかもしれないが、それらが実は表層的な要素でしかなく、本質的にはもっと別のレイヤーで子供たちと向き合わなければならないことを思い知った3年だった。どういうことか?

“海外”も“英語”も“世界でスポーツに挑戦する”も、確かに時代のキーワードであることは間違いない。IMGアカデミーに来ることで、日本では得られない経験が間違いなくできる。しかし考えてみれば当然で、同じように、海外で英語でスポーツに挑戦する環境に置かれても、取り組み方は生徒によって千差万別だ。

 

たとえば、スポーツ。IMGアカデミーに来るくらいだから、皆スポーツが好きだ。

でも、スポーツの何に喜びを感じているのか詳細に耳を傾けると、一人ひとり違う。

テニスだけを見ても、シングルスが好きで勝ち負けを追求することが好きな選手もいれば、ダブルスやチーム対抗戦で仲間のために頑張ることに喜びを感じる生徒もいる。時間をかけてコツコツと努力を積み重ねることが得意な子もいれば、短時間に集中力を発揮できる子もいる。

さらには、献身的に選手をサポートするアスレチックトレーナーやメンタルコンディショニングコーチが“カッコ良い”と思い、選手としての道ではなくトレーニングや心理学を学べる大学を目指して勉強に一層励んだりしている子もいる。どれも、素晴らしい。そして、すべてが正解だと思う。

英語もそうだ。英語がうまくなること自体に喜びを感じる子は稀で、英語ができたからコーチの話が理解できたり、友達が増えたり、授業をリードできたり、英語の“先”にあることが達成感やモチベーションに繋がっている。

当初、“海外スポーツ留学”と言うだけで日本にはない新しい答えに辿り着いた気がしていた自分が恥ずかしい。それは表層的なものでしかないと教えてくれたのが、一人ひとりの子供たちだった。

スポーツがうまくなりたい。その思いは皆、同じだと思うけれど、身体的な成長や特性、心が楽しくて嬉しいことを親が理解したり、あるいは指導者がそれを見つけたりすることができれば、うまくなるためのアプローチ方法は異なるのは当然だろうし、効果や効率もぐっと変わってくるだろう。

見誤れば、場合によっては怪我やバーンアウトを招くことだってある。もっと言えば、海外に出ることも、子供によっては正解ではないし、IMGアカデミーに入れば必ず成長するわけでもない。

photo by gettyimages

まだ“錦織圭選手のようになれるか”と聞きたい親御さんや指導者の方はいるだろうか? もしいるのなら、今一度子供たちのことをまずはしっかりと見ていただきたい。一方で、錦織圭という人物を戦績などの表面的なスペックだけで判断しているのであれば、それはとても悲しい。あるいは、あなたの見ている子を将来“ご飯をポロポロこぼす人”にしたいのか、という話だ(いや、それは違うだろ)。

余談だが、今年の初めに、2018年の目標を錦織圭に聞くと「ご飯をこぼさないようにすること」と、本気だか冗談だか分からない調子で答えてくれた。この目標を達成するよりもグランドスラムを勝つことの方が早いのではないか、と半分本気で思っていたりする。

最後に、もう一度。テニスキッズたち、心の奥で楽しいとか嬉しいと思えるものは何ですか? テニスキッズを持つ指導者の方や親御さんたち、子供たちが笑顔になっている瞬間はどんな時ですか?

【IMGアカデミー】1978年、世界初の全寮制のテニスアカデミーとしてニック・ボロテリーが設立。アスリートとして競技力だけではなく人間形成が重要であることを説き、数々のトッププレーヤーを育てる。87年にIMG傘下になり、テニスのほか野球、バスケットボール、ゴルフ、サッカー、陸上競技、アメフト、ラクロスと8競技に拡大。現在は政府の認可を受けた中高一貫の教育機関として大学進学を目指す長期留学、短期キャンプなど様々なプログラムを展開している。https://www.imgacademy.jp/
【ニック・ボロテリー】1931年7月31日生まれ。高校時代はアメフト選手という、テニスの世界ではトップ選手としての経歴が皆無という異色のコーチ。1978年、IMGアカデミーの前身であるニック・ボロテリー・テニスアカデミーを設立し、世界No.1の選手を10人育てる。2014年、国際テニス連盟の殿堂入りを果たした。著書に『CHANGING THE GAME 10人の世界一を育てた男』などがある。https://www.japanst.jp/nick-books

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