ビールを「最高に旨く飲む」3つの掟があった!

「注ぎの名人」が実践する美酒の方程式とは?
ブルーバックス編集部 プロフィール

泡がビールをおいしくする

井上さんが実践しているこの注ぎ方は、ビヤホールライオンで伝統的に受け継がれてきた「一度注ぎ」とよばれるもの。井上さんにポイントを聞いてみました。

「ジョッキの底にビールをじかに当てると、泡が立ちすぎてしまう。だから、斜めに傾けたジョッキの内側にビールを流し込みながら注いでいきます。ビールを回転させることで、余分な炭酸を抜きながら、同時に泡をつくっていく。こうすることで、スッキリした味わいのビールを注ぐことができるんですよ」

あの一瞬で、そんなに細かい調整をなさっているんですね……、さすが名人! それにしても、3割が泡って、意外に多い印象ですね?

「ビールをおいしく飲むには、泡が大きなポイントになるんですよ。ビールが直接、空気に触れると、酸化したり気が抜けてしまったりする。泡がビールに蓋をすることで、ビールが劣化することを防いでくれます。そのためにも、きめの細かい、しっかりした泡をつくることが大切なんです」(井上さん)

じつは、ビヤホールライオンでは、視覚的にもこの黄金比を楽しめるよう、グラスやジョッキにちょっとした“仕掛け”が施されています。ジョッキ表面に印字された「星(★)」型のロゴの、肩の部分に泡が来ると、ちょうど3対7の黄金比になるようにデザインされているのです。

  (動画撮影:浜村達也)

名人が実践する3つの掟

おどろくべきは、井上さんの妙技。

多人数のお客さんから同時に複数の注文が入っても、最後の1杯を注ぎ終わったときに、すべてのジョッキが黄金比になるように注ぎ分けるというのです。まさに神業!

【写真】ビール名人 井上さん
   注ぎ名人の井上克己さん。この道一筋40年の大ベテラン(撮影:浜村達也)

この一度注ぎの他にも、おいしく飲むための秘訣があるのでしょうか?

「なんといっても、ビールの品質管理です。ビールは鮮度が命ですから、つねに最高の状態にしておく必要がある。天候やお客さんの入りを予測しながら発注をかけるのですが、ビールは入荷後、適温に冷やすためと液体を落ち着かせるために丸1日を要するので、2日先の状況を見越しておく必要があります。品切れは論外ですし、一方で多く在庫を持ちすぎると劣化の原因になるので、この判断がきわめて重要です」(井上さん)

まるで生き物を扱っているみたいですね。まさしく「生」ビール!

「はい。加えて、タンクやサーバー、ホースといった、ビールが流れていく経路やジョッキをきれいに洗浄しておくこと。ビールの味は、この品質管理で8割決まると言っても過言ではありません」(井上さん)

なるほど。「注ぎ名人」の仕事の8割が、注ぐ前に終わってしまうんですね。深い……、とうなずきかけていたら、井上さんが3つめの秘訣を教えてくださいました。

「もう1つ、日頃からとても気をつけていることがあります。体調管理です。ビール注ぎに体調が影響するの? と意外に思われるかもしれませんが、これが大いに影響するんです。体調が悪い日はジョッキが重く感じられて反応が鈍くなる。スムーズに動けなくなって、いい泡がつくれなくなるんですよ」

何事も、「まずは良い体調から」ということですね。なんだかスポーツ選手にお話を伺っている気がしてきました。

【写真】創業以来、壁面を飾るガラスモザイクの壁画
   井上さんがビールを注ぐカウンターの背後には、巨大なガラスモザイクの壁画が。モチーフはビール大麦を収穫する女性たち。創業以来、ビール愛好家たちを見守りつづけてきた(提供:株式会社サッポロライオン)

ちなみに、ビヤホールライオン 銀座七丁目店では、名人ご指定でビールを注文できるとのこと。井上さんがご出勤なさっている日には、ぜひご指名で最高のビールを堪能あれ!