アインシュタイン作「世界一有名な方程式」はここがスゴイ!

天才だけが気づいた謎のエネルギーの正体
竹内 薫 プロフィール

エネルギーは変幻自在

さて、エネルギー=モノ、いいかえると、エネルギー=存在ということがわかったが、それは、「内部にある、仕事する能力」なのであった。

たとえば、高い位置にある物体は、落下することによってエネルギーがあらわになる。位置エネルギー(=重力エネルギー)が運動エネルギーに化けるのである。

ちなみに位置エネルギーは、秘められた能力というような意味で、一般的にはポテンシャル・エネルギーに分類される。英語のポテンシャル(potential)は「可能性、能力」を意味しますよね。

水力発電所では、高い位置にあった水が低い位置に移動し、高速・高圧になることを利用して、タービンを回して電気エネルギーに変換している。位置エネルギーが電気エネルギーに化けるわけだ。

産業革命における蒸気機関の発明により、人類は、石炭や石油などの化石燃料を燃焼させる化学反応を利用して、熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、機関車や汽船を動かせるようになった。化学エネルギー→熱エネルギー→運動エネルギーというエネルギー変化(へんげ)の可能性が開かれたのだ。

私が乗っているガソリン車もこの原理で走っている。熱エネルギーでタービンを回して、電気エネルギーへと変換することで、汽車は電車になり、各家庭に電化製品があふれる時代がやってきた。

【写真】熱を運動へ 古典的な動力機関
  産業革命により、人類は熱エネルギーを運動エネルギーに変換するようになった photo by gettyimages

「静止しているのにエネルギーがある」とは、これいかに

で、そろそろ本論に入るわけだが、天才アインシュタインの「静止エネルギー」は、学校で教わるエネルギーには(ほとんど?)出てこない。

いったいなぜだろう? せっかく学校で「動いているモノには運動エネルギーがあります」と教え、

【数式画像】E=1/2 mv2

という公式の使い方まで指南した後に、「でも、モノは止まっていてもエネルギーがあります」と、まるで逆のようなことを教えるのが厄介だからか。

たとえば、生徒からは、こんな質問が飛び出すにちがいない。

「センセー、止まっていた水が下に落ちたら、位置エネルギーが運動エネルギーに変わって、タービンを回して発電しますよね? だったら、原子力発電に出てくる静止エネルギーもポテンシャル・エネルギーの一種なんですかぁ?」

ええと、原子力エネルギーによる発電では、核分裂の際に「質量が減り」、その減った分の静止エネルギーが、中性子などの運動エネルギーに変換され、でも、中性子などはめちゃめちゃ小さいし、飛んでいる方向もバラバラなので、それは熱エネルギーであり、その熱エネルギーでタービンを回して電気に変換する……

なんだか、頭がクラクラしてくるが、要は、静止している原子核の「静止エネルギー」が、最終的に電気エネルギーに変換されるのだ。

「静止」しているのだから、それは「運動」エネルギーではないはず。だったら、広い意味でのポテンシャル・エネルギーなのではないか? 生徒がそんな疑問を抱いても不思議ではない。

だが、先生は、答えに窮するだろう。なぜなら、静止エネルギーは、それまで学校で教わってきた位置エネルギーなどとは本質的に異なるエネルギーだからだ。

この話はかなり複雑で、アインシュタインの理論において、位置エネルギーみたいなポテンシャル・エネルギーはどう扱うのかといえば、最終的に「重力場をあらわす計量テンソル」というムズカシイ数学が登場せざるをえない。テンソルは、数学のベクトルを一般化した概念だが、生徒の素朴な疑問に答えるために「テンソル」を持ち出しては身も蓋もない。

「位置エネルギーは重力場がもつエネルギーで、それは『時空のゆがみ』をあらわす。数学的には計量テンソルであらわされるんだよ」

うげー、これではもう、収拾がつかなくなってしまう(プロジェクト型の授業としては面白いかもしれないが)。

【写真】静止した水が落ちるのは運動エネルギー?
  止まっていた水が下に落ちたら、位置エネルギーが運動エネルギーに化ける photo by gettyimages

アインシュタインだけが気づいたこと

話を元に戻すと、アインシュタインの発見は、こんな形で書くことができる。

【数式画像】E=mc2/√1-(v/c)2

vはモノの速さであり、これがゼロのときに、

【数式画像】E=mc2

に帰着する。この式は、近似的に次のように書くこともできる。

【数式画像】E=mc2+1/2 mv2+……

右辺の前半が静止エネルギーで、後半は運動エネルギーだ!

つまり、アインシュタインは、それまでに知られていた運動エネルギーだけでなく、モノが止まっていても、静止エネルギーなるものが存在することを主張したのだ。アインシュタイン以前は、この静止エネルギーの存在には、誰も気づいていなかった。

太陽の核融合や核分裂の際には、質量mが減って、その欠損分が電気や光などのエネルギーに変換される。電子と陽電子が衝突すると、質量は完全に消滅してしまい、純粋なエネルギーに変換される。

現代物理学は、アインシュタインの数式なしには語ることができない。

【写真】黒板に書かれた数式とアインシュタイン
photo by gettyimages