凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題

テロにも発展。その名は「インセル」
八田 真行 プロフィール

「相対的剥奪」というキーワード

筆者はここ数年、いわゆる「トランプ現象」に興味があって調べているのだが、実はドナルド・トランプという個人にはあまり興味がない。トランプはいわばロウソクの芯のようなもので、確かにテレビ芸人としての彼の才能が無ければここまで話が大きくなるということはなかったと思うが、その一方、芯だけでは火は付かない。火が付くには、ロウが必要なのだ。

このロウ、すなわちトランプを押し上げた支持層に関しては、トランプの当選以降、政治学や社会学、経済学といった社会科学の領域で、様々な研究が行われている。

従来は、グローバリズムに痛めつけられた田舎の白人貧困層、という一面的な理解が多かったが、最近では、トランプ支持層は案外多様性のある集団で、所得水準も社会階層も問題意識もバラバラということが分かってきている。

 

インセルやピックアップ・アーティストは筆者がこうしたトランプ支持(というか反フェミニズム)層を研究する過程で出会った集団で、他のグループと合わせてマノスフィア(manosphere、男性世界とでも訳すべきか)と呼ばれる文化圏のようなものを形成している。マノスフィアを巡っては他にも面白い話はあるのだが、他日を期したい。

さて、トランプ支持層はバラバラと言ったが、彼らに全く共通項がないのかと言えばそうでもない。一つの切り口は、「相対的剥奪」(relative deprivation)ではないかと思う。最近のカリフォルニア大学の研究者による研究で、トランプ支持者の特徴の一つとして挙げられていた。

(photo by gettyimages)

相対的剥奪は、元々はこんな話だ。ある部署では、ある時期になると50%が昇進する。別の部署は25%しか昇進しない。常識的に考えれば、昇進する割合や人数が多い部署のほうが不満は少なさそうなものだが、こうした場合、先の部署のほうが不満が高まるのだという。4分の1しか昇進しないのであれば、仕方が無いと諦めもつくが、半分も昇進するのに自分は漏れたとなると、収まらない人が増えるのである。

ようするに、昇進の有無そのものや絶対的な格差よりも、主観的には「当然」昇進すべきだったのに、実際にはなぜか昇進できなかった、というような相対的な不遇のほうが、深い不満をもたらすのである。

この「当然」には、本来自分が得られるはずだったものを(多くの場合自分よりも劣っているとみなす相手に)不当に奪われた、という感覚も含まれる。

「当然」握るはずだったアメリカという国の主導権を黒人やヒスパニックに奪われる白人、中国やメキシコに仕事を奪われて「当然」得られるはずだった経済的果実を得られなくなった中流層、移民対策や社会保障のせいで「当然」得られるはずだった金を税金として持って行かれる富裕層。

そして「当然」得られるはずだった女性に相手にされないインセル、「当然」女性を意のままにできるはずだったのにフェミニズムやらポリティカル・コレクトネスのせいでそうもいかなくなったピックアップ・アーティスト、といった具合で、トランプ支持層に横串として相対的剥奪を通してみると、いろいろつじつまが合うのだ。

そもそも、すでに大統領選で勝利してから500日以上経っているのに相変わらず敗者のヒラリー・クリントンを叩いていたり、オバマと同じノーベル平和賞が取れそうだというので前のめりに北朝鮮との首脳対談に臨んだトランプ自身、「当然」得られるべき敬意が得られない、という相対的剥奪感に苦しんでいるのかもしれない。

そういう意味でも、確かにトランプは現在のアメリカの象徴と言えそうである。