認知症になった家族が事件や事故を起こし、何百万、何千万という賠償請求が身に振りかかってくる。考えただけで恐ろしいが、そんな現実がそこまで迫っている。認知症700万人時代に備えよ。
「先日、80歳になる母の家を訪ねたときのこと。焦げ臭いなと思って台所をのぞくとモクモクと煙が上がっていたんです。
慌てて駆け寄ると料理をしていたはずの母の姿がない。母は最近、『物忘れ』がひどくコンロに鍋をかけたことを完全に忘れていたのです。
もしあのまま火事になって、隣に燃え移っていたら、一体だれが責任を取ることになるのか、賠償金はどうするのか……。考えただけでもぞっとします」
こう語るのは山本雄二さん(58歳・仮名)だ。認知症を患った両親がなにをするかわからず、行動から目を離すことができない。
もし夜中に徘徊して、事故を起こしたらどうしよう、最近怒りっぽくなっているので、いきなり他人の子供に暴力を振るってケガでもさせたら、訴えられるんじゃないかと眠れぬ日々を送っている人は多い。
「もしものときに備えて、テレビのCMでもよく見る認知症保険に入ろうかと検討しているんだけど、正直よくわからない……」と山本さんは言う。
比較的新しいタイプの保険なので馴染みが薄いのも当然だ。
認知症保険には大別して二つの種類がある。
認知症になり介護が必要になったときに一時金がもらえる「治療型」の認知症保険(生保)と、認知症の人が第三者に損害を与えた際におカネが支払われる「損害補償型」の認知症保険(損保)だ。
まずは生保を見てみよう。現在、日本でもっとも売れているのは、太陽生命の「ひまわり認知症治療保険」だ。
この保険の場合、認知症と診断され180日間、その状態が継続すると、一時金として最高300万円が支給される。
保険も終身タイプと10年定期があり(ともに掛け捨て)、保険料は、60歳男性で終身タイプなら月額約6903円、女性は1万311円。年齢が高くなるにつれて上昇していく。加入条件は20歳から85歳まで。
気になるのは加入者が認知症を発症した場合、どうやって保険金を申請すればいいのかという点だろう。認知症になれば「保険に加入していたこと自体を忘れてしまう」ケースが多々あるからだ。
「それを防ぐためには、事前に『指定代理請求人』を決めておく必要がある」と語るのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の豊田眞弓氏だ。
「指定代理請求人とは、本人に代わって保険金を申請できる人のことです。基本は家族がなるものですが、ケアマネジャーなど第三者も対象になります。
ただし、指定代理請求人を決めても、本人以外だれも認知症保険に入っていることを知らなければ、保険金の請求はできません。自分が認知症保険に加入したことをだれかに伝えておくことが一番重要です」
また、太陽生命は、保険金の請求時に「かけつけ隊」を派遣し、請求書類を代筆するサービスも展開している。
「『ひまわり認知症治療保険』の場合は、一時金300万円だけでなく、骨折、がん、糖尿病、白内障などの疾病にかかった場合も給付金が出ます。さらに慢性関節リウマチや子宮筋腫など女性特有の病気も保障しています。
女性のほうが保険料が高いのは、平均寿命が長いので認知症になる確率も上がるからです」(太陽生命広報部)
このように生保型は医療保険の一面も持ち合わせている。