友森さんのもとに保護され、きれいになった老猫 撮影/山内信也
# 格差・貧困 # 多頭飼育崩壊 # ペット

困窮老人が老いた犬猫を「道連れ」にしようと…この国の悲しい現実

老老飼育がひどいことになっている

動物保護と譲渡活動の新しい形を模索し続けている、一般社団法人ランコントレ・ミグノンの友森玲子さん。友森さんによると、最近、飼い主の加齢・貧困・孤独によるペットの深刻な問題が増え続けているという。

平成16年の東京都の動物愛護相談センターの引き取り理由では、転居や動物の問題行動・狂暴化などを理由が上位だったが、平成28年では、飼い主の死や病気といった飼い主の健康状態が58%、経済的理由35%でペットを手放す人が増えているというのだ。

 

家賃滞納で発覚した32匹の猫

今年2月、ある保証会社より相談の電話がきた。

あるマンションの住居人(正確な年齢はわからないが50代後半~60代)が家賃を滞納し、裁判所命令で強制執行の日取りが決まっているという。その部屋には、多くの猫が飼育されていて、猫たちを捕まえ動物愛護センターへ運搬したいのだが、捕獲の相談をしたい、という要件だった。

やっかいな話が舞い込んできたな、と思いながら詳しく聞いてみると、当事者の住居者である飼い主と話をしたいにも、誰が訪問しても応答がない。飼い主と打ち合わせできぬまま時間が経ってしまい、もはやお手上げ状態だということで、私のところに問い合わせをしたという。

住居人の応答は、もう一週間以上もない。季節は冬真っ只中の2月、電気も止められているという。家賃滞納ということで、経済的困窮が激しく緊急性が高いと判断し、電話をもらったその晩、仕事終了後20時過ぎに、私は現場へ向かうことにした。

飼い主がいるかわからない。猫が一体何匹いるのかもわからない。でも、会えた場合を考え、猫の缶詰を5ケース車に積んだ。猫たちは、確実に空腹で苦しんでいるに違いないからだ。

現場のマンションに到着すると、鼻をつくように、猫のオシッコのニオイが漂ってきた。その強烈なニオイをたどっていくと、目的の部屋があった。ドアにあるチャイムを鳴らすも壊れていて鳴らない。猫缶のケースを抱えながら、ドアを強く何度もノックしながら語りかけた。

応答がない。

呼びかけても応答がない。

電気のメーターを見ると止まっている。

もしかして……と心配になり、ドアの隙間からニオイを嗅ぐ。死臭はしない、するのは猫のオシッコのニオイだけだ。耳をすましても大量のハエの羽音もしない。

仕方がないのでドアの前で粘って声をかけ続けた。絶対に中にいるはずだ。しばらくすると人の気配がドアの越しに近づいてきた……、いた!

ドア越しに説得をし続け、40~50分も経っただろうか。やっとのことで、ドアが開いた。

32頭の猫を道連れに死を考えた

室内に立ち入ると、電気は止まり、寒くて真っ暗だ。さらに、あまりにきついアンモニア臭で、しばらくいると目が痛くなってきた。いつも思うが、多頭飼育崩壊の現場は、心にも体にもきつい。ここでは詳しい話は聞けないと判断し、「食事がまだだったらご馳走しますので」と近くで唯一営業していた回転すしに移動して事情を聞くことにした。

ようやく入ることができたマンション。32匹の猫が暗く寒い中でうごめいていた 写真提供/友森玲子

店に入ると、「食事よりビールを飲みたい」と男性は言った。

「大事な話をするのでアルコールはなしにしましょう。私も他に入っていた夜の予定を断って、こうして来ているんですよ」

説教するつもりはなかったが、少しきつい言葉が口から出てしまった。

私自身、動物が好きでボランティアを始めただけだ。なのになぜ今、こんな夜遅い時間に見知らぬ年上の男性に向かって説教しているのか。そう思ったら、正直虚しさでいっぱいになってしまった。

男性が、マンションに入居したのは5〜6年前。そのとき、男性は、夫婦でノルウェージャンフォレストキャットという種類の猫を数頭飼っていたという。その後、しばらくするとマンションの他の部屋の住民が猫数頭を置き去りにして引っ越してしまった。残された猫を気の毒に思い、引き取って同居を始める。しかし、その猫たちは、避妊去勢手術をしておらず、繁殖し始めてしまう。

最初は、多少増えてもなんとも思わなかった。夫婦共働きで余裕もあり、猫好きでもあったからだ。ところがその後、男性は身体を壊して失業。続いて妻は、最初に飼っていた猫だけを連れて家を出てしまった。

猫はさらに繁殖し続け、男性の困窮も深まっていく。家賃滞納、電気も止まった。
「ちょっと前まで、32頭の猫たちを道連れに死のうと思っていた」と男性は言った。