日本の報道ではわからない、トランプ大統領の「真の野望」が見えた

現地取材で初めてわかること
立岩 陽一郎 プロフィール

北朝鮮などどうでもいい

北朝鮮問題もトランプ大統領にとっては、支持率を維持するための手段にすぎない。一般的な米国人にとって、対北朝鮮政策に期待するのは「米国に向けられた核兵器の撤去」だけだからだ(それ以上のことを期待するのは、主に大都市に住むインテリや有識者、あるいはメディアだけで、トランプの支持者ではない)。

大雑把にまとめると、トランプが描いたのは以下のようなシナリオだった。

米国民が「アジアに金正恩という変な独裁者がいて、米国に向けて核ミサイルを発射しようとしている」という不安を抱く → 北朝鮮の核攻撃を防ぐために、トランプは金正恩と会談する → 金正恩は敵対的でなくなり、トランプは問題を解決したことになる → 米中西部や南部における彼の支持率は上がり、中間選挙の見通しは明るくなる……

トランプ支持者たち(photo by gettyimages)

そして現実も、このシナリオ通りに進行した。トランプの大成功であり、朝鮮半島の非核化や拉致問題がどれだけ具体的に進むかなど、乱暴に言ってしまえば、彼にとってどうでもいいのだ。

米朝会談の目標だとメディアが喧伝した「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な核の廃棄)」など、お題目としては利用するものの、すぐ実現しなければいけない命題だとはおそらく考えていない(まして、そんな彼に「トランプ大統領は拉致問題の解決に全力を尽くしてくれる」などと期待するのは、おめでたいとしか言いようがない)。

トランプは会談の前に「金正恩と話してみて成果がないとわかったらすぐに席を立つ」などと言っていたが、実際にそんなことをする気は毛頭なかっただろう。仮に席を立って会談が決裂でもしたら、国内の支持者たちに「米国への脅威を取り除いてくれたリーダー」という好印象を与えることができなくなるからだ。

仮に米メディアから「会談の成果が不十分だ」と叩かれたとしても、トランプにとって、もともと自分に敵対的なメディアの評価など、支持層からの人気に大して影響を与えるわけではないのでどうでもいい。

ある意味でトランプ大統領が凄いのは、従来の支持者たち以外に新たに支持層を広げることにまったく興味がない点だ。意見の違う人たちに語りかけることなど時間の無駄だと思っているのか、自分を大統領に選んだ人たちからのサポートをしっかり固めることばかりに余念がない。それを続けるしか、自らの野望が叶う道はないと言わんばかりに──。

 

偏ったトランプ像ばかり

では、トランプ大統領が中間選挙に向けて頼みの綱にしている中西部や南部の支持者層とは、どのような人々なのか。なぜ、メディアにさんざん批判されてきたトランプを「王」と仰いでいるのか。

その答えは、首都ワシントンDCやニューヨーク、ロサンゼルスといった大都市では見つからない。そういった、トランプ支持者がほとんどいない街から出て、中西部や南部の田舎に足を運び、そこに住む人々に話を聞かなければわからない。

ところが、日本のメディアが支局と記者を置いているのは、ほとんどが上記のワシントンDC、ニューヨーク、ロサンゼルスという3つの大都市のみだ。しかも、そこでの記者の仕事は、人に会うよりも、米メディアの報道内容やトランプ大統領のツィートをチェックすることが中心になる。

記者が取材する相手はもっぱら日本大使館の人ばかり、というケースも多い。つまり、日本のメディアは米国でも日本政府の関係者だけに話を聞き、それを、あたかも今の米国の実像であるかのように日本の読者や視聴者に伝えている──という傾向があるのだ。

米メディアの報道内容を翻訳して伝えること自体は、もちろん悪いことではない。大切なのは「どういう記事を選択して翻訳するか」だが、実はこの点に大きな問題がある。

日本のメディアが、トランプ大統領本人の人間像を伝えるような、いわば社会面的な記事を翻訳して伝えることはほとんどない。基本的には、日米関係を軸とした外交、安全保障、貿易問題を扱ったものばかりを選択する。そこに今回のような、米朝関係や米中関係に関する報道がときどき加わる程度だ。

当然、それらの内容から見えてくるトランプ大統領像は、きわめて偏った、限定されたものになる。大都市以外に住む人々やインテリ層以外の人々の目に映るトランプの姿など、伝わってくるはずがない。