かけがえのない娘を太らせた「巨漢の父」の怒りと反省

わが子の健康を奪う親たち(3)
守田 向志 プロフィール

〈 勇一には妻と娘がいる。残念ながら妻との夫婦仲は冷めきっているが、一人娘が夫婦のつなぎ止め役になっており、離婚せず結婚生活を続けてきた。

勇一にとって娘はかけがえのない存在で、仕事が早く終わると帰りがけにケーキを買い、帰宅してから娘と一緒にそれを食べるのが至福の時間だった。

しかし、娘は中学生になった頃から彼のことを露骨に避けるようになり、ケーキを買ってきても見向きもしなくなった。

妻によると、娘は「昔からパパにケーキを無理やり食べさせられたせいで太った」と言って、勇一のことを嫌い始めたらしい。

「無理やり!? あいつは喜んでいたじゃないか」
「喜んでるふりをしてたのよ。あなたが怖くて」
「……怖い?」

「あなた昔、自分が買ってきたケーキをあの子が食べないから、大声で怒鳴りつけながら食べさせたことがあったじゃない。それが怖かったから、ずっと無理して食べてたみたいよ」

勇一は記憶を辿ってみた。たしかにそんなこともあったかもしれない。でもそれは遠い昔のことだし、二度か三度のことだ。それに第一、娘は自分で気にするほど太ってない。

なのに俺を嫌うとは、恩知らずにも程がある。

家族なんて作るんじゃなかった。ちくしょう! 〉

これは、ある女子生徒から聞いた父親の愚痴をもとにしたエピソードですが、この勇一さんは軽度ながらも「奪う親」だと言えます。

気持ちはわからなくもありません。平日は仕事が忙しく、休日も付きあいが多く、彼が娘とゆっくり話せる時間は、週に2日か3日、仕事が早く終わって夜9時頃に家に帰れた時に限られていたそうです。

その時間のためにケーキを買ってきて、娘の喜ぶ顔を見ながら一緒にそれを食べることでストレスを解消していたのでしょう。何度か怒鳴ってしまったのも、自分の愛情が否定されたように感じ、つい怒ってしまったのだと思います。

でも娘さんの立場から考えてみると、やはり勇一さんに非があると言わざるを得ません。

勇一さんは身長180㎝、体重100㎏の巨漢。そんな父親から怒鳴られれば、小学生の女の子の心には深い傷が残ります。

また彼女は、自分とケーキを食べる時間が父親のストレス解消になっていることを幼いながら察し、実際ケーキも好物なので、お腹が空いていなくても笑顔で付きあっていたそうです。

 

しかし、年頃になり体形が気になり出すと、それを負担に感じるようになり、遠回しに何度かそのことを伝えたものの、父親は「お前は全然太ってない」と言ってその習慣を止めなかったそうです。

彼女は中学1年の時、身長155㎝で体重は60㎏以上あり、それは巨体の父親からすると太っていないように見えたかもしれませんが、普通の中学1年の女子ならば、太っていると感じるはずです。

そして、同級生に体形をからかわれるたびに、彼女の心の中で父親への怒りが募っていき、やがて父親を避けるようになったのでした。

おそらく勇一さんは、ケーキを買って帰りながら、自分のことを「娘思いの優しいパパ」だと思っていたのでしょう。

しかし、娘さんにとっての彼は、「今食べなきゃ意味ないよ」と言ってケーキ片手に迫ってくる、恐怖の「道連れフィーダー・パパ」だったのです。

「道連れフィーダー・パパ」からの脱却

ただ、この話には続きがあります。勇一さんは一時的に「奪う親」だったものの、子育ての仕方を修正して親子関係を立て直したのです。

娘に避けられるようになったあと、彼の方もしばらく娘を避け続け、顔を合わせずに済むよう必ず深夜に帰宅し、カプセルホテルにもよく泊まっていたそうです。

このように、何かの機に家族の仲違いが始まり、やがて関係に決定的なヒビが入り、崩壊していく家庭も世の中には多いのではないでしょうか。

しかし、彼は違いました。