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「病院が多い県」に住むと「医療費」が2倍になるという驚きの真実

「医療経済」から考える日本の課題
2009年から財政破綻後の夕張に赴任していた森田医師は、当時、市民が笑顔で生活していたことに驚いたという。その後、夕張および全国のデータさらに医療経済学的知見から見えてきたのは、医療経済の拡大が必ずしも健康と比例しない現実であったーー。
最新刊『医療経済の嘘』で、医学的・経済学的な見地から医療や地域の問題を鮮やかに描出した森田氏が、病床数と医療費の関係に着目し、日本の「医療経済の歪み」を明らかにする。

高知県の入院医療費は、神奈川県の2倍!

病院の多い県(正確には人口あたりの病床数が多い県)の県民は、健康度や平均寿命は大差ないのにもかかわらず、入院医療費を2倍使うーー。そんなショッキングなデータをご存じでしょうか。

これは、今月発売された拙著『医療経済の嘘』にて掲載したデータの一つなのですが、いま「これは事実なのか?」との問い合わせをいくつも頂いています。

今回は、このデータの信憑性について考えるとともに、その裏に潜む「医療市場の失敗」とその処方箋について考えてみたいと思います。

拙著で紹介したデータはこちらです。

図1 全病床数(人口10万人当たり)と一人当たり入院医療費の関係

*図の出典 神奈川県HP:病床数の状況(平成24年度)

人口10万あたりの病床数(横軸)と県民一人あたりの一年の入院医療費(縦軸)を都道府県別にプロットしその相関関係を見たものです。よく勘違いされるのですが、ここで言う一人あたり医療費は、「入院した人、一人あたり」ではなく「県全体の入院医療費を、赤ちゃんから高齢者まで県民全員の人口で割った額」です。つまり本当の意味での「県民一人あたり」です。

グラフのとおり、一人あたり入院医療費が全国一高いのは、病床数が最も多い(人口10万あたり約2400床)高知県で、県民一人あたり約19万円。病床が最も少ない神奈川県民の一人あたり医療費(約9万円)の2倍以上を使っていることがわかります。

 

いま、このデータについての問い合わせとして、主に以下の2つのパターンを頂いています。

・このデータは県民一人あたりの「入院医療費」だが、より重要なのは「総医療費」である。そちらはどうなのか?

・高齢者の多い県で医療費が多くなるのは必然である。各都道府県で高齢化率は大きく違うのだから、高齢化率の影響を排除する必要があるのではないか?

これらについての私からの回答は「若干相関関係は落ちるが、やはりどちらについても上記の相関関係は成立すると考えられる」と言うところです。

「高齢化率」を考慮しても結果は同じ

まず「総医療費」について。こちらは神奈川県のHPに掲載されているグラフにその答えがあります。

図2 全病床数(人口10万人当たり)と一人当たり医療費の関係

*図の出典 神奈川県HP:病床数の状況(平成24年度)

縦軸が「一人あたり入院医療費」から「一人あたり医療費(総医療費)」と変わっていますので、まさにご質問への回答そのものだと思います。相関係数は0.964から0.914へと若干減少していますが、相関関係は依然として強く存在していると言っていいでしょう。

次に「高齢化率の影響」についてですが、こちらは厚生労働省が「年齢調整後の一人あたり医療費」について「市町村国民健康保険(主に高齢者以外が対象)」と「後期高齢者医療制度」でデータを出しています。

ここでは病床数との関連(相関係数)まではデータ化されていないのですが、やはり「年齢調整後の後期高齢者一人あたり医療費」が最も高い高知県(人口あたり病床数も日本一)は一人あたり68.3万円を使っていて、これは最も低い岩手県34.1万円の約2倍です。

市町村国保(主に高齢者以外が対象)でも同様で、最も高い鹿児島県(病床数は日本で2位)は一人あたり18.6万円。これは最も低い愛知県10.6万円に比較して、実に1.76倍となっています。繰り返しますがこれは都市部と地方の高齢化率の影響を排除した「年齢調整後」の数字です。

つまり、「高齢化率」という交絡因子の存在を除外してもなお「病院の多い県の県民は入院医療費を2倍使う」という言説が成立する可能性はかなり高いと言えるでしょう。

もちろん、相関関係は因果関係ではないので、更に多くの交絡因子(個人的には高齢化率以外に有力な交絡因子は思い浮かびませんが)を除外していかなければ真の「因果関係」にはたどり着きません。こちらは専門家による精緻な因果推論の結果を待ちたいところです。