「塗り替え型」から「並存型」へ
これまでのファッショントレンドは、ある商品がマスに広がると、それまで彼らが身に着けていた一つ前のトレンド商品はほぼ完全に市場から駆逐されていました。言ってみれば、市場が完全に「塗り替えられる」イメージです。
ですから、スキニーパンツとワイドパンツが「共存」する現在のファッショントレンドシーンは、それ以前とはずいぶん異なる状況だといえます。
かつてのカジュアルパンツのトレンドの変遷を見てみましょう。1996年頃、ビンテージジーンズブームが起きました。これは何十年も前に作られた古いジーンズがクローズアップされたムーブメントで、主に男性を中心に広がりました。
ダボッとした、作業着然としたシルエットの商品が人気でした。レディースでも人気隣、このころにデビューした女性二人組の歌手、パフィーの初期の舞台衣装はビンテージジーンズでした。このころ主に男性はビンテージジーンズ一色に染まっていました。

続いてやってきたのが、股上が浅いローライズジーンズブームです。これはレディースが主導したムーブメントで1999年か2000年ころに起きました。それまでのパンツ類の股上は深く、ヘソが隠れるくらいのハイウェストでしたが、ここから股上が浅く変化しました。
ローライズになるとズボンのシルエットが細くなります。ビンテージジーンズ風のダボッとしたシルエットは完全に消え去ってしまいます。ただしこのころの細いシルエットは裾広がりの「ブーツカット」が主流になりました。レディースのズボン類は「ローライズブーツカット」一色になり、それは2005年ころにピークを迎えます。
このローライズブーツカットのブームが2007年で終焉を迎え、2008年からそれに代わって超細身シルエットのスキニーがマスのトレンドになります。これでブーツカットは街中からほとんど姿を消し、スキニー一辺倒となります。メンズもレディースも完全にスキニーだけになり、それが2014年ごろまで続いたのです。
このように変遷を見てくると、現在のスキニーとワイドパンツの併用という着こなしが、いかにこれまでと異なっているかが理解できるのではないでしょうか。
2015年から始まったワイドパンツ復権以前は、一つのトレンドに圧倒的に集中してきたのがこれまでのファッション消費の動向でしたが、現在は二つのトレンドが同時に存在するという異例の事態となっています。
いわば、ファッショントレンドの在り方がこれまでの「塗り替え型」から「並存型」に変わってきたといえるでしょう。
では、変化はいつごろから始まったのでしょうか。90年代前半のバブル崩壊によって一気に日本の景気も悪くなり、洋服も売れなくなったと誤解されがちです。しかし、ファッションのビッグトレンドはなんだかんだと言って、2008年のスキニーブームまで続きます。少し振り返ってみましょう。