トヨタとソフトバンクが合併する日~日本企業が覇権を取り戻すため

自動車業界「未来の年表」
週刊現代 プロフィール

飛行機も月額制に

 田中さんが新刊『2022年の次世代自動車産業』にも書かれているように、次世代自動車産業の覇権を握るのはライドシェアの覇権を握ったものと言っても過言ではないでしょう。

人やクルマのプラットフォームとなり、あらゆるビッグデータが、ライドシェアの企業に集積される。

田中 ライドシェアの会社は航空、鉄道、クルマ、自転車までをすべてITでくっつけようとしている。

そうなるとその後は、アマゾンのような生活サービスや保険のような金融もくっついてくる。やがて自転車から飛行機まで月額料金1万円ですべて乗り放題なんてサービスも出てくるでしょう。

次世代の自動車産業でもトヨタが覇権を握ろうとするなら、このライドシェアに自ら参入しようとするくらいの気構えが必要です。

いやトヨタは日本の産業や雇用を守るという使命も背負っている会社なのですから、それ以上のグランドデザインを描かねばならない。

 そう考えるとしたら、ITでの実績のないトヨタは他の会社と組むしかありませんね。

このライドシェアの台頭をいち早く見抜いていたのが孫正義です。ソフトバンクは米ウーバーや中国の滴滴出行、インドのオラなど、業界を席巻しそうなライドシェア企業の数々に出資しています。孫さんの目利きは、本物です。

 

田中 そういう意味でも孫社長もソフトバンクの次の主戦場は自動車産業だと見ているわけですね。私の目には、孫さんは次世代自動車産業の覇権を取りに行っているように見えます。

 その通りです。私がソフトバンクの社長室長として、孫さんの「参謀」を務めていたとき、孫さんは「私はロックフェラーを目指している」とよく言っていました。

石油産業を皮切りに、自動車、電話を押さえたロックフェラーは第3次産業革命の覇者でしたが、孫さんは同じように第4次産業革命の英雄になろうとしているのです。

クルマが移動という機能に加えて通信機能も兼ね備え、スマホのようになろうとしているいま、孫さんがIT経営者として、その覇権を取りに行くのは当然のことです。

しかし、意外に思われるかもしれませんが、実は孫さんは私にこんなことも言っていました。「嶋さんは生まれた時から日本人だけど、私は違う。でも私は日本が好きでたまらない。だから自分の意志として日本国籍を申請したのです」と。

孫さんは豊田章男さんにも劣らず、日本を愛している。だからトヨタと組んで新しい時代を築くという選択肢も、孫さんの頭の中にはあるでしょう。トヨタとソフトバンクが組み、やがて合併を迎える日が来ても、不思議ではありません。

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田中 豊田社長もIT分野については孫さんにかなりレクチャーしてもらっているそうですね。

 はい、二人は年齢も近くて非常にいい関係です。私はソフトバンクが米スプリントを買収した際に、アメリカで交渉にあたっていましたが、そのときはアメリカのトヨタの方々にかなりお世話になりました。

ただし刻一刻と変わっている次世代自動車産業の趨勢を見ると、情緒的な理由で合併するようなことでは、共倒れになりかねない。そこは孫さんも豊田社長もかなりシビアに考えているとは思いますがね。

田中 豊田社長と孫さんでは思想もかなり違います。

 孫さんは典型的なビジョナリー(先見の明がある人)ですね。2008年、ソフトバンクがiPhoneを売り出すときは、まるでタイムマシンに乗って未来を見てきたかのように、スマホが日本に普及する光景を語っていました。