老父がAV問題で警察沙汰…「性欲を解消できない」高齢者の悲劇

これは大きな社会問題だ
片田 珠美 プロフィール

「老人は枯れている」という思い込みの方が違う

だから、「枯れた年寄り」という言葉自体、実はわれわれが勝手に思い描いている理想像と認識すべきである。年を取れば、体力が低下し、それに伴って性欲も弱まるはずなのに、「脱抑制」によって逆に性欲が強まる場合もあるのだ。そして、それは必ずしも病気として片づけられるわけではないということを忘れてはならない。

お年寄りというのがこういうイメージだというのは確かに一方的な目線。元気な高齢者が増えるのはとてもいいことではあるが・・・Photo by iStock

実は、この「脱抑制」に一役買ったと思われるのが、週刊誌の「死ぬまでセックス」特集である。一連の特集が高齢男性に与えた影響は大きく、知り合いの開業医は「バイアグラを処方してほしいという高齢の患者さんが増えているが、副作用を考えると危険な場合もあるので、できるだけ断るようにしている。でも、そうすると、すごい形相で怒りだし、しつこく要求するので困る」とこぼしていた。

バイアグラの処方を執拗に要求するのは、「自分と同じ年代でもいい思いをしている男がいるのなら、自分も楽しみたい」「男としてこのまま終わりたくない」という気持ちから、あきらめきれないからだろう。

「ずっと男でいたい」という願望を捨てきれないことを責めるつもりはない。なかなかあきらめきれないのが人間という生き物だと長年の臨床経験から痛感しているからだ。

しかし、体力があって薬に頼らなくても性欲を満たせる場合とは違い、体力が衰えてもなお「枯れた年寄り」になるのをなかなか受け入れられない高齢男性を増やしたという点では、「死ぬまでセックス」特集には罪深い一面もあると私は個人的に思っている。

 

問題は「生身でないと我慢できない性欲」

AVビデオを大音量で見て近所から苦情がきた先の例では、家族が近所に謝罪し、ビデオの音量を上げられないように設定して何とか対処したという。しかし、笑い話ではすまない場合もある。

「サチリアージス」という言葉をご存知だろうか。これは、男性の性欲の異常亢進を指す医学用語であり、ギリシャ神話に登場する半人半獣のサテュロスに由来する。サテュロスは欲情に駆られており、男性の象徴である器官が常に興奮していたという。

もちろん、性欲がどれくらい強くなったら異常とみなすのかは、社会や時代背景、本人の年齢や家庭環境などによって左右されるだろうが、「サチリアージス」の典型とされているのは、スペインの伝説的な放蕩児、ドン・ファンである。

17世紀スペインにいたとされる伝説上プレイボーイがドンファン。男の夢を体現しているのかもしれない Photo by Getty Images

ドン・ファンといえば、最近急性覚醒剤中毒で死亡した「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助さんが脳裏に浮かぶ。美女4000人に30億円を貢いだというのが事実であり、本当にすべての女性と性行為に及んでいたのであれば、野崎さんも「サチリアージス」の範疇に入るのかもしれない。

ただ、野崎さんはお金持ちで、お金に物を言わせて性欲を満たすことが可能だった。しかし、お金がなくて性の相手を見つけることができない高齢男性が「サチリアージス」になると、警察沙汰になりかねない。

性犯罪で逮捕された容疑者の精神鑑定を行う際に「サチリアージス」を疑わざるを得ないことも多い。高齢者でも、体力が低下しているとはいえ、強制わいせつやストーカー行為で逮捕されることがある。また、成人女性を避け、弱者である子どもや障害を持った女性などに声をかけて、身体を触ったり、家に連れ込んだりして、逮捕された実例もある。「サチリアージス」に脳の抑制機能の衰えがあいまって起こるやっかいな例だ。