2018.06.28
# M&A # 武田薬品工業

武田が7兆円買収で手に入れる、シャイアー「パイプライン」の真価

「新薬」という大輪の花は咲くか
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

まず海外展開に大きく舵を取ったのは、7代目社長の武田國男氏。創業家の三男で、「武田長兵衛」を襲名するはずだった長兄が40代で急逝したことを受け、国際畑を歩いたあと、1993年に社長になった。「傍流」にいて会社の「だめなところ」を見ていた「落ちこぼれ」(日経新聞「私の履歴書」)だったからこそ、組織を変えられたのだろう。

それまでの武田は「アリナミン」など利益の薄い医薬外事業が売上の3分の1を占めていたが、武田社長が大ナタを振るった構造改革で、2000年度には売上一兆円規模、利益も社長就任前の3倍に伸びた。

しかし、武田社長には「パイプライン」の強運も付いて回った。社長自らが社内の反対を押し切って後押しした前立腺がん治療薬「リュープリン」はじめ、消化性潰瘍治療薬「タケプロン」 *米国での商標名はプレバシッド 、糖尿病治療薬「アクトス」、高血圧症治療薬の「ブロプレス」と、4つの画期的な大型自社新薬が80年代の終わりから90年代に次々と世界で承認されたのだ。

2003年から2011年までにこの4つのブロックバスターが到達したピーク年間売上は、ブロプレスとリュープリンがそれぞれ2000億円を超え、タケプロンやアクトスに至っては5000億円にも上った。パイプラインに大輪の4つの花が満開となったのだ。

自社創薬の利益率は抜群に高い。2005年度には武田のキャッシュを稼ぐ力は年間3000億円レベルに達し、バランスシートにも2兆円近いネット現預金が溜まっていた。

 

パイプライン暗転の苦悩

しかし、パイプラインの苦悩は、大きな花が咲いた時から始まる。特許切れでブロックバスターの売上が激減する「パテントクリフ」が組み込まれてしまうからである。お花畑が終わると、崖が待っているのだ。

武田國男氏が「創業家からの社長は自分の代限り」という約束を貫いて満開の花道を飾ると、次の長谷川閑史(やすちか)社長の仕事は、ひたすら企業買収で苗や鉢植えを買ってきてパイプラインのテコ入れをすることとなった。

2008年に米ミレニアム・ファーマシューティカルズを9000億円で、2011年にはスイスのナイコメッド社を1兆1千億円で買収。2兆円あったネット現預金を使い切って、がん治療のバイオ薬、新興国などの成長分野を取り込んだ。

当初、武田の戦略は、こうした買収で特許切れの崖をなだらかにしながら時間を買い、その間に次の大型自社薬を市場に投入する、というものだった。実際ミレニアムから買ったパイプラインには、売上2000億円に育った潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」などもある。

しかし、後に続くべき自社パイプラインが大苦戦してしまったのだ。「TAK-475 (高脂血症治療薬)」、「TAK-242(敗血症治療薬)」、「TAK-875(糖尿病治療薬)」など、いずれも大型化が期待されていた治験薬が次々と、それも開発後期のツボミが膨らみかけてもうすぐ、というところで中止となってしまった。

一方、買収によって世界に拡大した組織をまとめることに苦悩した長谷川社長は、企業体質を更に国際化するための大決断を下す。2014年、グラクソ・スミスクライン(GSK)出身のクリストフ・ウェバー氏を次期社長に指名し、生え抜きを選抜する日本型経営から完全に決別したのだ。これには株主総会で、創業家やOBの一部が「外資ののっとり」だと反旗を翻す波乱が起きた。

医薬品業界のさらなる構造変化

そして今回のシャイアー買収。「数打てば」と言っては失礼だが、世界のメガファーマの仲間入りは、基本的に規模と研究開発費でパイプラインを極力太くして不確実性を乗り切ろうという戦略だ。

約7兆円という買収金額は、武田の時価総額のほぼ2倍。通常「小が大を飲み込む」場合、株式交換をしたのでは議決権(=買い手の支配力)が下がってしまうから、借金をしてキャッシュで買い、買収先の資産を使ってその借金を返すという「レバレッジ・バイアウト」が好まれる。

しかし7兆円では、さすがに全額借金は難しい。仮に貸し手がいても財務リスクが上がって、社債の投資適格維持も危うくなってしまう。現金と新株発行による株式交換の両方を使う武田のやり方は「合併に近い買収」であり、支配と財務のギリギリのバランスをとった苦肉の策に見える。

武田がここまで危機感を強める背景には、規模だけではなく業界の質的な変化による構造リスクもある。

糖尿病や高血圧など、武田が従来強かった生活習慣病では新薬開発が一巡して、承認のハードルが上がってしまった。成長分野は癌や難病、希少疾患などにシフトしている。

また、成長目覚ましいバイオ薬 *遺伝子組み換え技術を使って動物細胞やバクテリアなどに抗体を培養させる は分子がずっと大きく複雑で、より高度な開発技術や資金のかかる製造工程が要求される。

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