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米国NCAAは日本の「体育会系」を変えることができるのか?

日米「大学スポーツ」こんなに違う

日大アメフト部騒動に思うこと

一時帰国のために東京に到着したのが2週間ほど前。それからテレビを点けるたび、朝も夜もほとんどのニュース番組やワイドショーで日大アメフト部の「殺人タックル」問題が繰り返し映し出されてうんざりしていた。

今はそれが紀州のドン・ファン事件に取って代わった(それはそれでうんざりしている)が、仕事柄ミーティングを行う相手はスポーツ関係者が多いため、その度ごとに必ずと言っていいほど大学スポーツの話題に及んでいる。

日米の大学スポーツの違い、特にNCAA(National Collegiate Athletic Association/全米大学体育協会)が米国ではどのように機能しているのか。あるいは日本版NCAAがあれば、今回のような件も起こりにくいのではないか、という議論もたくさん出た。結論を言えば、NCAAのような組織を作ったところで根本的な解決は難しいだろう。

大学スポーツの歴史も違えば、スポーツに対するお金のかけ方も異なるし、参考にできることもあれば日本独自の道を探さなければならない点も多々ある。

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今回の議論で一つだけ間違いなく良かった点は、今年度を目処に設立を目指している日本版NCAAが、大学スポーツの観戦チケット販売やテレビの放映権など商業的な側面に注目が集まっていた中、NCAAが本来の役割として”Academics”、”Well-Being”、”Fairness”という3つの柱を掲げ大学アスリートの勉学や安全性、スポーツマンシップなどを統括する組織であるという事実に目が向けられたことだろう。

それが果たして日本の大学スポーツに、あるいは“体育会系”と呼ばれるネガティブな状況に、どのような効力を発揮するのか、NCAAのそもそもの成り立ちや、それに関連するカンファレンスや大学内の構造などもう少し具体的に紹介していくことにする。

NCAAがスタートしたのは20世紀初頭

米国で「大学スポーツ」という考え方が始まったのは19世紀にも遡る。1852年、ハーバード大学とイェール大学のボート部のレースが開催され、大学間の“ライバル”の構造がスポーツ競技によって明確に示され、人々は熱狂し、たくさんの観客を呼び込んだ。このアイデアは他競技にも広がり、特にアメリカンフットボールは人気を博すことになる。

課題になったのは競技や大会運営のルール管理などで、特にコンタクトスポーツであるアメリカンフットボールでは怪我人も続出した。1905年には競技中の事故で少なくとも3人が死亡、168人が深刻な怪我を負ったと記録されており、大学間を超えた第三者機関が求められ、翌1906年にはThe Intercollegiate Athletic Association of the United States (IAAUS)が発足し、後に改名され1910年にThe National Collegiate Athletic Association (NCAA)が設立された。

 

当時はテレビがそもそもなかったし、試合の観戦料を取ったのは1915年にピッツバーグ大学が行ったものが初めてで、ナンバー入りのユニフォームを作りたいから、という商業的とは呼べないなんとも可愛らしい理由からで、現在日本で言われるように当時は「NCAA=金になる」という考え方は皆無だった。

1920年代になると、大学スポーツの人気により観戦者数の増加で新しいスタジアムの建設が盛んになり始め、また競技レベルの向上のために優秀なコーチを招聘するなど、スポーツ施設や人的リソースなどの充実をはかるようになった。

NCAAが組織としてテレビ放映権をコントロールし始めたのが1950年代(それ以前は大学が個別でテレビ局と契約することもあった)。当初の契約は観客が会場から遠のくとの懸念などもあり放映する試合数も限られ、金額も年間で1億円を超える程度だった。

現在はNCAAが持つテレビ放映権はチャンピオンシップのみで地域性なども関わるレギュラーシーズンのものは各カンファレンスが担当するなどより複雑化しているが、CBSが2010年から2022年まで契約した放映権料はトータルで$10.8 billionと1兆円を超え、1年あたり1000億円近くにも及ぶ。

この数字を見れば、確かにNCAAの存在は大学スポーツが特大の経済効果を上げる印象を持つのは理解できるが、そもそもの意義は大学スポーツを健全化することにあり、100年を超える歴史の中で魅力が醸成され、テレビ放映されるだけのコンテンツとして育った背景を理解すれば“組織を作ればお金を生み出す”という短絡的な発想はいかに現実味がないか分かるだろう。

また、米国の大学スポーツはNCAAが統括的な立場にあるものの、地域などをベースに別れたカンファレンス、そして各大学に設置されたAthletic Department(スポーツ部を統括する独立部署)が大きな役割を果たしている。