重要選挙でまたしても出てきた「福島に住んではいけない」というウソ

脱原発を訴える人こそ、正しい情報を
林 智裕 プロフィール

逆効果になってしまう

新潟県知事選挙は6月10日に即日開票され、与党の推薦を受けた花角英世氏が勝利しています。しかし池田氏との票差は小さく、いずれの候補も沢山の民意を託されたと言えるでしょう。

新潟県では今後も柏崎刈羽原発を巡っての議論がかわされることでしょうが、池田氏は選挙戦前のインタビューで、

「将来的には原発は減らしていくべきだ。検証委員会の検証テーマなどを見ると検証結果として『原発を動かすには厳しい』という結果が導き出される可能性は高いと思っている」

としつつも、

「しかし方向を決めて検証していくというのでは科学的に検証していくという意義から少し外れてしまう。丁寧な検証をして、結果をしっかりとみていくべきだ」

と発言していました(日本経済新聞5/9「新潟知事選、池田氏『原発再稼働、丁寧な検証を』」

原発に反対する立場の候補者である池田氏が、「科学的な検証」の重要性を冷静に語っていたことは評価できると言えます。しかし、池田氏を応援する人々が非科学的な言説で「反原発」を呼びかけてしまったこと、そして周囲がそれを咎めなかったことは、大いに問題視されるべきだと私は考えます。

「脱原発」を主張するために、非科学的な嘘を使ってまで福島の不幸を願う必要はないのです。むしろ今後、そのような態度を続けることは、主張そのものの説得力を大きく損ない、逆効果になるでしょう。

 

もし「脱原発」を誠実に目指すのであれば、原発事故直後に福島県内であれ程までに盛り上がった脱原発の流れが何故沈黙してしまったのか、その意味を謙虚に受け止める必要があるのではないでしょうか。

特に今回の新潟県知事選挙では、池田氏の応援に野党各党の代表や有力議員が続々と応援演説に駆けつけた他、雁屋氏らと共に「のりこえねっと」共同代表を務める評論家の佐高信氏、現政権に対して批判的なことで知られる法政大学山口二郎教授、慶應義塾大学金子勝名誉教授なども駆けつけました。

これらの方々は、今回の選挙戦で福島に対する偏見が再び拡散した問題をきちんと把握し、その反省をされたのでしょうか。その後、この件について何のコメントもないことに、私は大きな不安を持っています。

震災から7年以上が経った今も、福島では数多くの課題が残っています。なかでも、誤解による偏見に伴う被害は深刻です。

昨年三菱総合研究所が行った東京都での調査によると、「福島では、次世代の子ども達に被曝による健康被害が出る」と誤解している人が半数近くにものぼっていました。

三菱綜合研究所サイトより

実際には、東電原発事故由来程度の被曝量では健康被害は起こりません。なによりも、被曝の影響が次世代へ遺伝・影響しないことは、70年以上昔の原爆の被害調査でもとっくに判っていたはずでした。

戦後、「唯一の被爆国」であることがアイデンティティの一つとなったわが国では、核兵器の恐ろしさを語り継ごうとしてきた一方で、放射線の影響については漫然とした不安を抱えるばかりで、一般の市民には基本的な知識すら充分には浸透していないのが現状です。

福島での東電原発事故から7年以上。すでに「正しい情報」は様々なところから発信されているにも関わらず、またしても福島に対する誤解が再生産されてしまいました。

手詰まり感が強い中で、未だに広く残り続ける誤解と偏見を無くしていくには、これからどうしていけば良いのでしょうか──。