重要選挙でまたしても出てきた「福島に住んではいけない」というウソ

脱原発を訴える人こそ、正しい情報を
林 智裕 プロフィール

「レベル7」とされる東電原発事故が発生したにもかかわらず、福島での実際の被曝量は幸いにも世界の一般的な地域と比べても高くないことが、民間も含めたさまざまな機関からの複数の実測データによる裏付けで、すでに判っています(http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0952-4746/36/1/49;jsessionid=06670BFBA539A515A92414D644E2374C.c4.iopscience.cld.iop.org)。

つまり、「被曝による鼻血のリスク」を議論する以前に「福島に暮らす人達は、そもそもリスクを議論する前提となるような被曝さえしていない」のです。これは国内だけでなく、UNSCEAR(国連科学委員会)報告書などでも示されています(http://www.unscear.org/docs/publications/2017/UNSCEAR_WP2017_JAPANESE.pdf)。

美味しんぼ騒動前の2013年に行われたコープ福島での陰膳調査(一人分食事を多く作り、実際に食べたものの放射性物質を図る調査)のデータ。http://www.fukushima.coop/kagezen/2013.html この時点ですでにセシウムの影響は見られず、内部被曝が起こっていないことがわかる。

その一方、鼻血という症状自体は被曝とは無関係にありふれたもので、成長期の子供や花粉症の人に起こりやすく、また疲労やストレスによってもしばしば起こります。

つまり、「鼻血が出たこと」自体は事実であっても、それを被曝と結びつける客観的・科学的な根拠はないのです。

『美味しんぼ』騒動の際にも、一部の人のあいだではあれほど「鼻血」が騒動となったにもかかわらず、実際には当事者である福島の住民からは雁屋氏への抗議が相次いだ上に、医療機関においても鼻血を主訴とした受診数が有意に増えたというデータすらないのです。福島で本当に被曝によって鼻血が多発していたならば、このような状況になったでしょうか?(参考:「鼻血は被曝影響だったのか――原発事故のデマや誤解を考える 菊池誠×小峰公子」(SYNODOS))

 

「今日も作業員が死んでいる」?

今回の新潟県知事選挙では、作詞家・翻訳家の湯川れい子氏も、野党推薦候補を応援するツイートで「拡散希望」として「今日も福島では作業員が死んでいます」と述べ、波紋を広げました。このツイートは、同候補を応援する団体などによってもリツイートされ、拡散しました。

「作業員が大量に死亡した」という「怪談」は、震災直後にはしばしば飛び交っていました。東電福島第一原発で作業中に亡くなった作業員の方はもちろん、ゼロではありません。

ただし、それは被曝を原因としたものではなく、労災事故や熱中症、持病の悪化などによるものです。作業員の被曝線量は、先ほど述べた通り低いレベルにとどまっています。

生身の人間が毎日数千人も出入りする現場で、事故も死亡も恒久的にゼロにすることは不可能でしょう。それでも現在、東電福島第一原発での労災発生状況は、一般的な建設業の現場よりもむしろ低く抑えられています。

湯川氏のツイートは(本人の希望した方向とはおそらく違う形で)拡散・炎上し、その後湯川氏はツイートを削除、謝罪しました。

今も190万人近くが暮らす福島の日常、そして廃炉作業は、「被曝で鼻血が出る」「作業員大量死亡」などという「オカルト」をとっくの昔に置いてきぼりにして、先へ先へと進んでいます。

ところが2018年にもなって、全国が注目する県知事選の選挙活動中に、有力候補の応援において「鼻血」「福島にいてはいけない」「今日も福島では作業員が死んでいます」といった言説が再び出てきた上に、公党やその関係者がこうした誤りを否定するどころか拡散してしまうという「事件」が起こったーー私は今回の一件をそう捉えています。

もっとも、こうした「事件」は政治だけでなく、報道・メディアの言説の中でもこれまでしばしば起こってきました。福島のポジティブな情報は無視し、報道しない一方で、誤解や偏見を助長する番組を流すことが少なくなかったのです。

例えば昨年夏には、テレビ朝日が「放射能汚染への除染が済んだという政府の言葉を信じて帰島したビキニ環礁ロンゲラップ島の住民たちに、帰島後、被曝による健康被害が多発した」という内容のドキュメンタリー番組を放映しました。

その番組の予告時には当初「フクシマの未来予想図」というサブタイトルがつけられていましたが、これが「炎上」してテレビ朝日への問い合わせが相次ぐと、同局がその後、タイトルをつけた意図や理由などの明確な説明は拒否しつつ、放送直前にそのサブタイトルを突然削除するという「事件」が起こりました(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52558)。

なぜ、福島のポジティブなニュースはなかなか広がらず、何年経っても周回遅れの「怪談」がもてはやされ続けるのでしょうか。