日本人が「わら人形」を未だに怖れる理由

最近はネットで簡単に買えるけど…
菊地 浩平 プロフィール

最近では、1877年(明治10年)に上野公園で発見されたわら人形が東京国立博物館で「マジカル・アジア」(2017年)と題した展示に出品され、話題となったのは記憶に新しい。

東京国立博物館 「マジカル・アジア」展 ポスター

また、わら人形が関わる事件も次のように2017年1月だけで、2件もニュースになっている。

・1月6日、女性に交際を断られた愛知県在住の高校非常勤講師の男性が、自宅敷地内に針の刺さったわら人形のようなものを置いたとして、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕。
 
・1月23日、群馬県内にあるゲームセンターの駐車場に女性の名前や似顔絵を赤い塗料で書き込み、くぎを刺したわら人形を置いた男が脅迫の容疑で逮捕。

 
これらの罪名を見ると明らかだが、今日では、わら人形で呪いをかけること自体を罪に問うことはできない。

 

ちなみにかつての日本では、人形を用いた呪いが法で禁止されていた。人形による呪いは厭魅(えんみ)と呼ばれ、聖武天皇によって729年に出された勅令には、厭魅の首謀者は斬首、加担者は流刑に処するとある。

757年の養老律令にも同内容の条項があり、1870年(明治3年)の新律綱領でも厭魅は禁止されている。

明治時代になってもなお、法文書に厭魅が登場することはいささか驚かされる。

前述の通り、今日では人形による呪いに関する法律は存在しないが、毎年それなりの数のわら人形に関連する事件は報じられている。わら人形の呪いなんてフィクションの中だけでしょ、と思っていても、そんな報道を見聞すればついぎょっとしてしまうのは事実だろう。

「のろい」は「まじない」と紙一重

これは、一見非科学的に思えるような存在や事象を信じたり感じたりする力が、未だに消失していない証拠でもある。「呪い」は"のろい"の他に"まじない"とも読む。

東北地方などには、カシマ様ショウキ様といったコミュニティの守り神の役割を果たす巨大なわら人形を山道にこしらえる習慣があるが、そこに託されるのはしばしば五穀豊穣や無病息災といった極めて素朴で切実な祈りに他ならない。

秋田県湯沢市岩崎地区に古くから伝わる鹿島様 (Wikipediaより)

同じわら人形でも、これらは"のろい"というより"まじない"の道具として利用されていることが分かる。

また、都市に生活する人々にとっても、切実な祈りを込めたまじないに触れる機会は決して少なくない。

例えば小学生を主たる読者層とする、マーク・矢崎治信監修の『ミラクル!おまじない大じてん』(成美堂出版、2017年)には次のようなおまじないが紹介されている。

白いフェルトで、ウサギのマスコットを作ります。綿を入れるときに「社会」とかいた紙も、一緒に入れてね。これをカバンに入れておけば、社会の授業が楽しくなります。

フェルトで作られたウサギの中身を、何かの拍子にうっかり覗いてしまったとき「社会」と書かれた紙が入っていたら仰天すること請け合いだ。

だがそれはさておき、その根底には「社会の授業を楽しく受けたい」という、小学生ならではの素朴な祈りがあるわけで、なんとも微笑ましい。

『ミラクル!おまじない大じてん』

本当に効果があるのかは不問としたいが、とはいえ、幼少期から大人になるまで、こうしたまじないの類とまったくの無縁であったという人は珍しいのではないか。ここまでやらなくとも、個人的なジンクスや願掛けの類を生活に取り入れている人は少なくないだろう。