『万引き家族』の是枝監督が「入浴シーン」を撮り続ける深い理由

「風呂の水」は血よりも濃い
伊藤 弘了 プロフィール

『万引き家族』ではどう描かれているか

『歩いても 歩いても』では、のちに『テルマエ・ロマエ』(2012年)で“国民的お風呂俳優”の座に就くことになる阿部寛演じる父親と、再婚相手の妻(夏川結衣)の連れ子(田中祥平)との入浴が描かれる【写真4】。

【写真4】『歩いても 歩いても』、是枝裕和監督、2008年(DVD、バンダイビジュアル、2009年)

普段は別々に風呂に入っているというこの血のつながらない父子は、祖母(樹木希林)のすすめで一緒に入浴することになる。浴槽内で二人が話題にするのは、祖母から聞いた迷信である。祖母—父—息子の三代に渡って、血のつながりを超えた思い出が共有される。

この流れで『万引き家族』の入浴シーンにも触れておくべきだろう。近所で「保護」してきた幼い少女(佐々木みゆ)とともに柴田信代(安藤サクラ)が湯船に浸かるシーンで、信代は少女の腕に虐待の痕跡と見られるアイロンの火傷跡をみとめ、自身の腕にも同様にアイロンの火傷跡があることを示す。

信代はクリーニング店で働いており、作中にはアイロン掛けの作業をする彼女の姿も見られるので、これは仕事の上でついた傷と考えるのが普通だろう。だが、劇中で示唆される彼女自身の不遇な幼年時代に照らしてみると、実は彼女の火傷跡もまた虐待の名残であるのかもしれない。

いずれにせよ、彼女たちは浴室という場でお互いの傷跡を介して疑似母娘の契りを交わしているのである。

 

是枝作品に見られる入浴シーンが家族間の親密さをあらわしていることはもはや明らかだろう。しかし、ここでさらにもう一歩踏み込んでみたい。是枝作品で描かれる浴室は、単に親密さを表現するためだけの場所ではなく、家族が家族になるための場所である。そう言ってしまいたい。

これまでの文章のなかでも仄めかしてきたように、是枝作品には血のつながりのない家族が数多く登場する。『誰も知らない』の異父兄弟、『歩いても 歩いても』の父親と妻の連れ子、『万引き家族』の信代と少女。彼らは入浴という体験を共有し、まさにそこで親密さを深めることによって、血のつながりを超えて家族になっていく。

『そして父になる』で描かれているように、血縁だけでは家族は成立しない。一般には「血は水よりも濃い」と言われるが、是枝作品にあっては「風呂の水は血よりも濃い」のである

さらに言えば、人々が裸の付き合いを通して絆を深める場は風呂に限られるわけではない。『DISTANCE』(2002年)や『奇跡』(2011年)のプールや、『万引き家族』の海水浴もまた、家族間の親密さをあらわすとともに、血のつながらない人々を家族にする役割を果たしている。

このとき、水に隣接して展開される諸々のアクティヴィティもまた同様の役割を担うことになるが、なかでも「釣り」はその最たるものである。最後にこの点について見ておこう。