photo by gettyimages

『万引き家族』の是枝監督が「入浴シーン」を撮り続ける深い理由

「風呂の水」は血よりも濃い

是枝裕和監督の作品を見ていると気づくことがある。『誰も知らない』『海街diary』『そして父になる』、そして最新作『万引き家族』……必ずと言っていいほど「入浴シーン」が現れるのだ。なぜ彼は入浴にこだわるのか。実は、それぞれの作品を詳しく見ると、「人はどのようにして『家族』になりうるのか」を描いてきた是枝監督の思想が、そこに凝縮していることがわかるのだ。入浴シーンに注目すれば、是枝作品をより深く味わうことができる。

『そして父になる』の入浴シーン

是枝裕和は、これまでに監督したほぼすべての映画作品で入浴に関わるシーンを描いている。

たとえば、先週(2018年6月9日)地上波で放送された『海街diary』(2015年)には、次女(長澤まさみ)が浴室内でカマドウマを見つけて大騒ぎするシーンと、四女(広瀬すず)が湯船に浸かって物思いにふける姿を捉えたシーンが見られる【写真1】。

【写真1】『海街diary』、是枝裕和監督、2015年(DVD、ポニーキャニオン、2015年)

彼女たちはなぜ映画のなかで風呂に入るのか。女優の裸体がスクリーンに彩りを添える一大要素であることに異論はないだろう。しかし、是枝作品に見られる入浴シーンは、当然ながら単に観客のエロティシズムを満足させるためだけに用意されているわけではない。

それでは、一体どのような意味があるというのか。それを知るための手がかりを与えてくれる作品が『そして父になる』(2013年)である。まずはその内容を見ていこう。

『そして父になる』は、実在の新生児取り違え事件に着想を得た作品である。本作は、子どもを取り違えられた二組の家庭を中心に描いているが、この二組の家庭、とりわけ父親の人物像は、きわめて対照的に設定されている。

 

東京の大手建設会社に勤務し、出世街道をひた走る野々宮良多(福山雅治)は、まさに絵に描いたような成功したエリートであり、専業主婦のみどり(尾野真千子)と高級ホテルの一室を思わせるようなタワーマンションで裕福な暮らしを送っている。

一人息子である慶多(二宮慶多)の教育にも力を入れており、映画は慶多の私立小学校受験の場面から始まっている。

それに対して、群馬で小さな電器店を営む斎木雄大(リリー・フランキー)はお世辞にも裕福な暮らしをしているとは言いがたい(優雅にレクサスを乗り回す良多に対して、雄大は日常的に店の名前が入った軽ワゴンに乗っている)。

妻のゆかり(真木よう子)も弁当屋のパートに出て家計を支えている。取り違えられた長男の琉晴(黄升炫)を含めて子どもは三人いる。子どもを教育するというよりは、一緒になって楽しむタイプの両親である。