冷戦終結から来年で30年になる。早いものだ。そう感じるのは年代のせいか。
東西対立の象徴であったベルリンの壁が崩壊し、やがて西ドイツが東ドイツを吸収するようにしてドイツ再統一が果たされ、共産圏の盟主であったソ連は解体された。
自由と民主主義が勝利し、硬直した制度である共産主義は自壊した──と、人々は見なした。
ベルリンの壁の崩壊からさかのぼること数ヵ月、ちょうど30年前の今頃、それを予告するかのように論壇誌に発表されたフランシス・フクヤマの論文「歴史の終わりか?」が大きな波紋を広げていた。
実際に冷戦終結に至ると著者の名声はいやが上にも高まり、論文は
この本の主張をめぐっては、いまだ誤解に基づくものも含め、論争が絶えない。
単純な本ではない。ここで著者が「歴史」と呼んでいるのは、人類の政治制度をめぐる思想闘争のことである。それは結局、自由な民主主義に
1990年代の歴史は明らかにそのように進んだ。自由と民主主義は世界に拡散していくように見えた。ロシアも中国も、改革や開放の軌道に乗ったようであった。
いま、ベルリンの壁崩壊30年を前に、世界の姿はどうであろう。
自由と民主主義は、むしろ後退している。ロシアや中国では強権的なプーチン大統領や習近平国家主席が長期政権維持の構えだ。東欧ではポーランドやハンガリーなどあちこちに共産主義時代並みの強権政治が復活している。
東に目を転じれば、東南アジアでも軍政が復活したり(タイ)、強権政権が生まれたり(フィリピン)、期待された民主化がなかなか進まなかったり(ミャンマー)している。
自由と民主主義の最先端を走ってきたアメリカや西欧までがポピュリズムの台頭でぐらつき出した。英国の欧州連合(EU)脱退とアメリカのトランプ政権誕生が、それを象徴する。