思いつきだけで物を言う「勘違いした人」にはこう対処せよ

同調圧力を華麗にかわす
佐藤 優 プロフィール

オンラインを断つ小島が大事

この発想は実に興味深い。ヘーゲルの弁証法的な「正-反-合」の構成をしているからだ。

第一段階(正)において、われわれは、同調圧力ととらわれた常識の世界に生きている。第二段階(反)において、勉強を進めることでノリが悪くなり、キモくなる。第三段階(合)では、アイロニーとユーモアの技法を自由自在に操ることで、ノリの悪さとキモさを超克して、常識の世界でも生きられるようになる。

ただし、常識の世界の人々と同じ言葉を使っていても、考えていることは学知を踏まえた別のことである。言い換えると常識の世界と学知の世界を自由に移行できるようになるということだ。

 

本書を読んで、マスメディアで活躍する知識人は、表現形態は異なっていてもアイロニーとユーモアを巧みに駆使していることに気付いた。千葉氏の言説は普遍的性格を帯びている。

本書には、千葉氏が後輩の東大生と行った質疑応答も収録されている。

〈Q 日々本を読んだり、芸術を鑑賞したりしていても上の空というか、千葉先生の言うところの「自己破壊感」がないです。

アイロニー、ユーモアを獲得したいけれどもストックが自分のなかにない気がして「どうしましょうか」という感じで生きているのですが……。

(千葉)これはおそらく読書量が足りないんじゃないでしょうか。

たとえば、ある絵を見たときにどういうツッコミ方ができるのかというパターンは、研究者や批評家が言葉を尽くしていて、歴史的に蓄積されているものだから、アクセスして学ぶことができます〉

読書が不足していて、思いつきだけで物を言う自分は頭が良いと勘違いしている学生に対し、千葉氏は冷や水を浴びせている。教育者として、こういう姿勢も重要だ。

思考の技法については、ネットとアナログの関係についての考察が興味深い。

千葉氏は、〈現代においては、現代社会と直結した接続過剰的なツールと、そこから逃れるためのツールを区別して使いこなすのがいいと考えています。

SNSは前者の最たるもので、情報収集のために欠かせませんが、しかし、おそらく何かを作り出そうと欲望するためには、そこから自分を切断する、別の場所で自分を「有限化」するための別のツールが必要だと思うんです。

それはデジタルツールでもできる。Evernoteやアウトライナーで、思考の「小島」を作るのでもいい。あるいは、紙のノートのように、ネットから完全に切断されたアナログなものを使ってみるのでもいい〉と述べる。

評者はまさにこの方法を用いており、大学ノートとEvernoteによって過剰接続から逃れる「小島」を作っている。

『週刊現代』2018年6月23日号より