アップルとの裁判に「負けた」サムスン。日本の技術者たちのヘットハンティング攻勢とは…… Photo by Getty Images

韓国から狙われている日本の「知的財産」を守る「最も簡単な方法」

1100億円の損害も
弁理士として東京に事務所を構え、国内外4万件以上の特許・商標を扱ってきたという国際パテント・マネタイザーの正林真之氏。特許、商標、意匠をはじめとする知的財産の権利化と保護、そしてその運用について、日本はかなり遅れを取っていると危惧する。このままではアジアの、世界の最貧国として高齢化社会の中没落してしまうのではないかーー。その危機感を持って実際に日本の知財が盗まれた例をもとに、今すぐ日本と企業が取るべき戦略を説明する。

アップルに589億払ったサムスンの敗北

2018年5月終わり、2011年から続いていた韓国のサムスンと米国のアップルとの特許侵害を巡る裁判の決着がついた。

サムスンが2010年と2011年に発売したAndroidスマートフォンで、スマートフォンに関連するAppleのデザイン特許の3件を侵害したとして5億3,331万6,606ドル(約583億円)、一般の特許の2件を侵害したとして532万5,050ドル(約5.82億円)、併せて総額約5億3,900万ドル(約589億円)をサムスンは支払わなければならないことになったのだ。参考までに申し上げると、東京スカイツリーの建設費が約500億円である。

以前認定された損害賠償額を不服として争っていたサムスンだが、シリコンバレーの中心地に位置するサンノゼの米連邦地方裁判所で全員一致の評決として下された結果は、サムスン側の主張とアップル側の主張のそれぞれの金額のほぼ中央値だった。つまり、今回の損害賠償額は完全にサムスンの敗北と言える。

陪審団がこのような評決を下した根拠は明らかにされていないが、いずれにせよこのような高額の損害賠償は、IT業界全体にデザイン、つまり意匠権の重要性を改めて認識させることは確実だろう。

これは、「同じように訴訟に追い込まれ、高額な賠償金を支払わなければならなくなる可能性がある」ということではあるが、それ以上に重要な考慮点があることに留意しなければならない。

つまり、サムスンというのは「技術というのは自ら開発するものではなく、調達してくるものだ」と言っていた時期があり、上記の案件はその結果であるとみることもできるからだ。そして、「日本の企業がいつ何時、同じように盗まれる可能性がある」ということを、忘れてはならない。

 

「盗まれた」ことが分からない日本

そもそも、日本では「知財が盗まれたこと」がわからない状態が多い。盗むほうは何を盗むかがわかっているけれど、盗まれた方は何を盗まれたかが分かっていないので、「価値があるから守らなければ」という頭がないことが多い。

ごく身近な例を挙げてみよう。私が子どもの頃、持っていた未使用のテレホンカードが欲しいと弟から言われた。1000円で買ったものだったのであげたあとに、それが岡本太郎のもので、市場で2万円くらいで売っていることがわかった。しかし私には価値が分かっておらず、弟はわかっていた。弟も卑怯かもしれないが、わかっていなかった私に間違いなく落ち度はある。

「価値がわかるか、わからないか」ということはそういうことだ。

日本からの知財流出の分かりやすい例を挙げてみよう。2015年からの訴訟で、韓国の鉄鋼最大手ポスコが新日鉄住金に2,990億ウォン(約317億円)の和解金を支払った事件をご存知だろうか。電気を家庭に送る変圧器等に使われる方向性電磁鋼板の製造技術を不正入手したポスコが、その罪を問われた裁判での和解だったが、ほぼ新日鉄住金の全面勝訴に近い形だった。

しかし、この結果を喜んでいる場合ではない。最も恐ろしいのは、発覚までの約25年間近く、新日鉄がポスコに製造技術を盗まれ続けていたことがわかっていなかったことだ。

しかも、ポスコの社員が中国企業にポスコの機密情報を売り渡したということで捕まり、その刑事訴訟で容疑者が「技術はポスコのものではなく、もともとは新日鉄のものだ」と衝撃的な証言を行ったという。つまり、「日本のものを盗んだのであって、韓国のものは盗んでいない」という内容を証言したことから、この事件が発覚したのである。

当然のことながら、この事件で新日鉄住金はポスコに情報を漏らした元社員に損害賠償を求めた。その結果、元社員を含む約10人が新日鉄住金側に謝罪し、裁判の末、元従業員らが罪を認めて解決金を支払った。その解決金の額は公表されていないが、1人あたり1億円を超えていたとも報じられている。新日鉄が2017年3月に訴訟を取り下げ、この事件は終結した。