金正恩が警戒する「120万朝鮮人民軍の軍部クーデター」

実は留守にするのが心配で仕方なかった
近藤 大介 プロフィール

不穏な動き

さて、3月8日にトランプ大統領が、米朝首脳会談に応じると発表してから、北朝鮮国内の動きは風雲急を告げた。

4月20日、金正恩委員長は、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回全員会議を招集。「核実験と大陸間弾道ロケット(ミサイル)試験発射の中止」を宣言し、「社会主義経済建設に総力を結集する」とした。2年前に定めた核と経済建設という「並進政策」を、あっさり放棄してしまったのだ。

さらに、経済建設にあたっては、「党と勤労団体、政権機関、法機関、武力機関などの役割を高めていく」と定めた。

これまで最優先にされてきた朝鮮人民軍は、5番目の最後尾に後退。しかも「軍」ではなく、人民保安省(警察)や国家保衛省(秘密警察)と一緒くたの「武力機関」とされてしまったのだった。

 

韓国の著名な北朝鮮研究者の李永鐘中央日報統一文化研究所長が語る。

「父親の金正日総書記は、『先軍政治』と呼ばれる軍最優先の政治を行いました。それに対し、金正恩委員長が父親と最も異なる点が、朝鮮人民軍の扱いです。

軍を重宝するどころか、幹部たちのクビを次々とすげ替えて、軍部の力を骨抜きにしようとしています。

これに対して、軍の長老たちの不満は、爆発寸前だという情報を得ています」

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120万朝鮮人民軍の「不穏な動き」が起こる可能性があるというのだ。

このように軍部との対立を深める金委員長は先月、大きな賭けに出た。軍総政治局長、軍総参謀長、人民武力相という「軍トップ3」のクビを、全員すげ替えてしまったのである。

金正日総書記は、軍幹部の権力を分散させるため、政治思想を統括する総政治局長、実戦部隊を統括する総参謀長、後方支援を統括する人民武力相の「3頭体制」にした。だがこれらトップ3の顔ぶれは、ほぼ固定してきた。

それが金正恩時代になってからは、わずか6年あまりで、それぞれ4人目、6人目、7人目。しかも先月は、前代未聞の総交替させてしまった。特に、76歳の金正覚総政治局長と84歳の李明秀総参謀長は、金正恩元帥に次ぐ次帥であり、軍元老の代表格だ。

金正恩委員長は5月18日に、中央軍事委員会拡大会議を招集。軍幹部を一堂に集めて、引き締めを図った。

その際、最高司令官であるはずの金委員長は、軍服を着ることもなく、涼しげな白の韓服で訓示を垂れたのだった。