岸田文雄×太田雄貴「東京五輪で日本が魅せるべきもの、遺すべき事」

成功のためには、こんな発想が必要だ
現代ビジネス編集部

ライフシフトと東京五輪と

太田 それに日本では「一意専心」の精神が尊ばれるせいか、スポーツ選手はスポーツだけやればいいと思われている。スポーツ選手がビジネスをしようとしたり、政治を語ったりすることはご法度なんです。

岸田 確かに、そういうところはあるかもしれませんね。私も中学ではテニス、高校では野球をやっていましたが、ひとつの競技に専念している人のほうが評価される雰囲気はあった。複数の部活を掛け持ちしたり、スポーツ以外のことにも取り組む人はあまり評価されない。日本には「ひとつのことに打ち込むことが美しい」という価値観が根強いのかもしれません。

太田 そこが海外の場合は違うんです。たとえばIOCのトーマス・バッハ会長。彼は、弁護士として働きながらフェンシングで金メダルをとり、今は企業の顧問弁護士と並行してIOCの会長職を務めている。私の練習仲間にも、医師をしながらオリンピックに出た海外の選手もいます。弁護士や医師をしながら選手としてオリンピックを目指すなんて、日本では考えられないでしょう。

岸田 言われてみればそうですね。バッハ会長の場合はとりわけ優秀なのかもしれませんが、たしかに複数のキャリアを積んだというスポーツ選手は日本には少ないかもしれません。政治の世界でも、多種多様な才能を持った人が入ってきたほうが好ましいわけですから、その課題については共有できますね。

太田 これからは日本でも、スポーツ選手がデュアルキャリア、パラレルキャリアを歩むことが当たり前になってほしいと思うんです。金メダルを取ればいいというのではなくて、金メダルを取った上で、さらに何ができるのかを追求する人材が育ってほしい。

岸田 今の太田さんのお話は、まさに政府が取り組んでいる「働き方改革」にも通じます。日本は未だに、ひとつの会社に入ったら定年までずっと勤める働き方が基本だと思われていて、別の会社や違う業種に積極的に飛び込もうという人は少ない。しかし、今の世の中は人手不足でもありますし、流動性を高めて色んな働き方を選択できるように変わっていかなければいけない。

これからの日本は「人生100年」の時代を迎えますから、その長い人生をどう心豊かに生きるか。これまでのように20年勉強して、40年働いて、あとはのんびり老後を過ごすというパターンはもう通用しない。色んな仕事を経験できて、何度でも学び直しができる。そんな多様性を持った社会を作っていきたいですね。

太田 人生が長い時代ですから、健康寿命を延ばすという意味でも、ぜひ多くの方にスポーツに親しんでほしいですね。東京五輪をきっかけに、多くの人がスポーツの魅力を改めて知ってほしいと思います。

岸田 今日、太田さんとお話させていただき、東京五輪は道路整備や競技場といったハードだけでなく、「おもてなしの心」に象徴されるソフトの面でも、大きなレガシーを遺してくれることが改めてよくわかりました。五輪がもたらしてくれるレガシーを2020年以降も継承し、発展させていくために、私もできることをがんばっていきたいと思います。

今日はありがとうございました。

(取材/文 平井康章 撮影/村上庄吾)