岸田文雄×太田雄貴「東京五輪で日本が魅せるべきもの、遺すべき事」

成功のためには、こんな発想が必要だ
現代ビジネス編集部 プロフィール

東京五輪後への不安

岸田 日本人としては、どうしても自国の選手に目が行きがちですからね。私たち政治家も取り組んでいくべき課題ですが、太田さんからみて、どんな工夫のしようがあると思いますか?

太田 手前味噌ではありますが、ひとつ、フェンシングを例にお話してもよいでしょうか。岸田さんもご存じのとおり、フェンシングはあまり人気のないスポーツです。実際、日本で大きな大会が行われても、観客は少ない。どうすれば会場の「熱気」を生み出すことができるか、いろいろと分析をしてみたんです。

そのなかで見えてきたことがひとつ。フェンシングの大会は「フルーレの日」「エペの日」「サーブルの日」と、種目別に行われて、その種目はその一日で完結してしまうんですね。そのため、「フルーレを観る観客」「エペを観る観客」「サーブルを観る観客」と、観客が分散してしまう。だから、最終日の最後のほうになると、どんどんお客さんが少なくなってしまうんです。これでは選手のモチベーションにも影響が出ます。

そこで、それぞれの種目の決勝を、最終日にまとめて行うように変えたんです。そうするとフルーレもエペもサーブルも、すべて同じ日に決勝が見れるのなら……とお客さんが決勝の行われる最終日にも足を運んでくれるようになった。

それまで、決勝といっても100人も観客がいればいい方だったんですが、この「改革」を実施した大会では、1600人もの方が決勝に来てくれたんです。もちろん、観客が多い方が選手にもいい影響がありますし、来てくださった方も「ああ、こんなに多くのファンと一緒に盛り上がれて楽しかったな。また来たいな」と感じてくださるわけです。

太田雄貴・日本フェンシング協会会長

岸田 一気に10倍ですか。それはすごい。すべてのスポーツに応用できるわけではないかもしれませんが、どんな競技も工夫を凝らせば、まだまだファンを増やす余地がある、ということですね。たくさんのお客さんが熱心に観戦してくれれば、選手も力が沸いて、良いパフォーマンスを発揮することができます。どこの国の選手かは関係なく、観客が自然と応援したくなる。そんな環境や雰囲気を作っていきたいですね。

太田 少し気が早いかもしれませんが、僕は東京五輪が終わった後についての不安もあるんです。

岸田 確かに気が早いですね(笑)。でも、アスリートも政治家も先を見通すことが大事ですからね。いったいどんな不安でしょうか。

 

太田 具体的には、2020年以降、オリンピックのために拠出されていた各種の補助金が打ち切られてしまい、立ち行かなくなる競技団体が出てくるのではないかという不安です。

岸田 五輪という大きな目標に向けては補助金が出るけど、終わったら出なくなる恐れがあると?

太田 そうです。競技団体の多くは、自分たちでマネタイズすることが苦手なんです。日本のスポーツは、多くが学校体育から発展したものですから、有料化するとか、自分たちで稼ぐという発想がない。だから、自立して運営できる競技団体は限られている。もし、東京五輪が終わって補助金がなくなり、スポンサーも去ってしまえば、国際大会も招致できないし、スポーツの普及もできないという悪循環に陥ってしまいます。存続できない競技も出てくるのではないかと懸念しています。

岸田 それは深刻な問題ですね。スポーツに対する補助金のあり方も考えなければいけないかもしれない。

太田 国の補助金については、僭越ながら常々から発想が逆だと思っています。メダルを取れるくらい強い競技には手厚い補助金が出るけど、弱い競技団体には少ない。たとえてみれば、「勝馬」に乗っているような支援です。そうではなく、弱い馬を応援して、勝てるようにみんなでがんばろうというのが本来の補助金のあり方だと思うんです。

岸田 より効果の高い支援策を考えていかないといけませんね。いまの太田さんの「懸念」については、政治の側もしっかりと議論すべきでしょう。

支援といえば、国内だけでなく、海外への支援も継続する必要があります。日本では、東京五輪を機に官民が連携して「スポーツ・フォー・トゥモロー」(SFT)という、スポーツを通じた外交に取り組んでいるんです。

これは、開発途上国を中心とする100か国・1000万人以上を対象に、各種の競技に必要な道具を送ったり、日本からスポーツの指導者を派遣したりして、スポーツの普及と競技レベルの向上を目指すプロジェクトです。