岸田文雄・自民党政調会長(左)/太田雄貴・日本フェンシング協会会

岸田文雄×太田雄貴「東京五輪で日本が魅せるべきもの、遺すべき事」

成功のためには、こんな発想が必要だ

いよいよ2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック。トップアスリートが繰り広げる熱き戦いへの期待は膨らむばかりだが、五輪開催に向けて残された課題も少なくない。

在任期間が戦後歴代2位となる外相時代に90カ国以上を訪問し、国際政治に精通した岸田文雄・自民党政調会長と、2008年の北京五輪で日本フェンシング史上初の銀メダルを獲得し、現在は幅広くスポーツの普及に取り組む太田雄貴・日本フェンシング協会会長が、東京五輪成功に向けての日本の取り組みを語り合った。

震えたあの瞬間

岸田 東京五輪まであと2年となりました。太田さんは5年前の2013年9月に、ブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会で日本のプレゼンターを務められ、東京五輪招致にたいへん尽力されました。改めて、その節はありがとうございました。

太田 当時のジャック・ロゲIOC会長が次期五輪開催地を「トウキョー」と発表した瞬間は、人生でいちばん興奮しましたね。僕はフェンシングの選手として銀メダルを獲得しましたが、その時の何倍も嬉しかったくらいです。あの感動が強すぎて、しばらく他のことには不感症になってしまいました(笑)

岸田 私もあの瞬間のことはよく覚えていますよ。安倍総理や東京五輪組織委員会の森(喜朗)会長と一緒に待機していましたが、決まった瞬間には思わず椅子から飛び上がって喜びました。

前回の東京五輪が開催された1964年当時、私は小学校に上がったばかりでしたが、いまでも日本中が熱気に包まれたあのときのことを思い出します。そんな一大イベントが再び東京で行われるという、歴史的瞬間に立ち会えて感激しました。

 

太田 振り返ってみると、あの場面で「勝ち切れた」ことは日本にとってすごく大きいことだったと思うんです。日本人はどちらかと言えば控えめで行儀が良いですが、競争の激しい国際社会にあって、「順番待ち」をしているだけでは絶対に五輪を呼ぶことはできない。

その点、あの時は岸田さんをはじめとする政治家、僕らアスリート、そして多くの国民の皆さんの応援があって五輪を招致することができた。一丸となって勝ち取った、というところに大きな意味があると思います。

岸田 五輪招致を勝ち取ることができたのは、確かに日本にとって大きな成果です。今の日本は少子高齢化が進んだこともあり、難しい時代を迎えつつある。そんな中で東京五輪の開催は明るい話題ですし、みんなの心の支えにもなると思います。

一方で、五輪は世界から注目される一大イベントだけに、日本という国の「魅力」を発信する絶好の機会でもあります。スポーツはもちろん、観光や技術力の高さなど、日本の長所を積極的に発信していかなければならない。

太田 おっしゃる通りですね。五輪という機会を通じて、どれだけ日本の「ファン」を増やすことができるのか。五輪に参加する選手はざっと1万5000人で、これにスタッフやコーチを加えれば10万人。さらに、観戦に訪れるお客さんも含めれば百万単位の外国人が訪れるわけですから、様々な場面で日本の良さをアピールできると思います。

「自分ごと」にしてもらうには

岸田 それだけ多くの外国人を受け入れるわけですから、準備は多岐に渡ります。それを、ひとつひとつていねいに行う必要があります。宿泊先の確保や、会場へのアクセス手段を整備することは当然ですが、観光案内所や道路標示についても、まだまだ工夫していかなければならない。政府としても、改善に取り組んでいるところです。

たとえば、通訳をどうするのかという問題がありますが、言葉については、日本の技術力の発揮のしどころです。先日、自民党本部で「多言語音声翻訳システム」の展示会が行われたんですが、今や多くの日本企業がAIの自動学習システムを利用して、さまざまな国の言葉を自動的に翻訳してくれる画期的なシステムを開発しています。

これは、世界の最先端レベルであると言っていい。こうした技術は、五輪だけでなく、例えば郵便局や役所の窓口で使うとか、災害時の避難に役立てるとか、使い道がいくつもあります。

東京五輪を「スポーツの魅力を伝える機会」としてだけ捉えるのは勿体ない。せっかく来ていただく外国の方々に、「ああ、やっぱり日本の技術・文化はすごいんだな」と感じてもらう機会にすることも大切だと思いますね。

岸田文雄・自民党政調会長

太田 ひとつ気になるのは、あと2年あるせいか、今はまだ「五輪なんてひとごと」と感じている国民も少なくないということです。これをどうやって「自分ごと」と捉えてもらうかが、私たちスポーツ界に課せられた宿題でもあります。

岸田 その部分は、私たち政治家にとっても大きな課題です。

太田 そんな中で、ひとつのヒントになったのが東京五輪の「マスコット選び」でした。

岸田 東京五輪のマスコットは、組織委員会が3つの候補作を提示して、その中から全国の小学生に投票して決めてもらったんですよね。

太田 その投票の時、僕はフランスの日本人学校に行って立ち合いをしたんです。海外に住んでいる彼らにも投票権がありますから。そのとき、自分の選んだマスコットが採用されて喜ぶ子もいれば、落選して泣いてしまう子もいた。その光景を見ていて、ああ、この子たちにとって、自分の好きなマスコットが選ばれることがすごく重要なんだ、とわかりました。

岸田 マスコット選びを通じて、子どもたちは東京五輪をまさに「自分ごと」として感じることができたわけですね。五輪に関心をもってもらうために、子どものみならず、大人にも五輪に関心を持ってもらえるようなイベントをどんどん行っていく必要があるでしょう。

太田 もうひとつ、私たち運営側が考えなければならないのは、外国人のみならず、日本人のお客さんにも会場に足を運んでもらうにはどうすればいいのか、ということです。よく「アスリートファースト」と言われますが、僕にとってこの言葉は「満員の会場で勝つ」という意味なんです。

岸田 せっかくメダルを取っても、会場がガラガラでは寂しいですからね。

太田 せっかく世界のトップアスリートが集まるんですから、どの会場も満杯にしなくてはいけない。日本が強い種目とか、日本の選手が出場する試合については、放っておいても人は集まるでしょう。でも、あまり知らない国どうしの対戦になったら、会場がガラガラになるかもしれない。