米朝会談直前のシンガポールを包む「3つの熱気」

それでも日本はカヤの外なのか…
近藤 大介 プロフィール

「世紀の会談」「歴史的な和解」――さまざまに形容されるトランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談が、6月12日午前9時から、シンガポールの外島、セントーサ島に建つ高級リゾートホテルのカペラホテルで開かれる。

この原稿は、その前日の11日深夜、シンガポールにあるプレスセンターで書いている。私も、東京から約5000kmも離れた東南アジアの先進都市へやって来た。米中首脳会談の後に読まれる方には、申し訳ないが、なるべく現場の雰囲気が伝わるように心がけて書き進めていく。

DPRK-US Summit

シンガポールは今、三重の意味で、尋常でない熱気に包まれている。

第一に、暑気と湿気だ。夜8時を回って、ようやく気温が摂氏30度まで下がってきた。ここは赤道直下の南国なのだ。

うだるような暑さと蒸すような湿り気は、体力と気力を容赦なく消耗させていく。と同時に、この世のすべての「生業事(なりわいごと)」を、放念したい気にさせる。その意味で、米朝が角突き合わせる首脳会談には、打ってつけの場所かもしれない。逆説的だが、暑さが両者の頭を冷やすのだ。

 

第二に、世界中から蝟集した記者たちの熱気である。シンガポール政府が急遽、設置したプレスセンターに登録したジャーナリストは、ざっと3000人! 韓国人が450人で一番多く、日本人はそこまではいかないが、二番手の数百人規模。うちNHKだけで、100人前後もいると聞く。

ちなみにプレスセンターの大部屋で、長机の私の正面は、台湾人記者団が占拠している。右隣はインド人たち、左は韓国人たちだ。

頭上では、朝から深夜まで、地元シンガポールのニュース専門チャンネル「アジアTV」が、米朝首脳会談特集を報じ続けている。まるで日本の民放が夏にやる24時間テレビのようで、深夜になった現在、メインの女性キャスターは、化粧もひび割れて、気の毒な相貌と化している。大事な「本番」は、明日だというのに。

第三に、開催地シンガポールのヤル気である。シンガポール政府のある関係者に言わせると、1965年の建国以来、最大のイベントなのだという。

こちらでは、「トランプ・キム・サミット」と呼ばれている。略して、「TKS」。何だか映画の表題のようだが、正式な英語表記は、「DPRK-US Summit」と、アルファベット順で北朝鮮が先に来る。

シンガポールは、このわずか数時間の首脳会談に、2000万ドルもの特別予算を国庫から捻出した。セントレジスホテルの北朝鮮側の滞在費は、はっきりは言わないが、シンガポール政府が出しているような気がしてならない。とにかく、3000人ものジャーナリストが世界からやってきて、シンガポールを世界に「宣伝」してくれる「天啓」が訪れたと、シンガポールの政府関係者たちはホクホク顔なのだ。

そのため、われわれジャーナリストは、「天使」のような扱いを受けている。一例を示せば、プレスセンター1階のビュッフェで、午前11時から午後9時まで、ミシュラン級のコックが腕を振るった料理が、好きなだけ無料で提供されている。

ウエスタン・スタイルの野菜のバター炒め、韓国風のチャプチェとスパイシー・フライドチキン、イタリアンの貝風パスタ、アメリカンの若鳥のバーベキューソース炒め、マッシュルームにクリームチーズ、マレーシアンのシーフード焼きそば、インディアンのマサラカレー、ベトナミーズのココナツ風ポーク、タイ風のビーフ・グリーンカレー、フレンチのビーフ・ブリスケ、オリエンタルのチキンシチュー、そして地元シンガポールの若鳥ライスやフィッシュカレー……。

今ここに挙げただけでも全体の3分の1くらいで、見渡す限り世界中のごちそうが並んでいるのだ。デザートも15種類くらいある。私はこれまで世界のいろんなプレスセンターに行ったことがあるが、ここまで豪華絢爛な料理を、すべて無料で提供されたのは初めてだ。

ただし、和食はゼロ。私は一応、シンガポールの政府関係者に、「北朝鮮問題で日本はカヤの外に置かれているということですか?」と質問してみた。すると、「う〜ん、和食がおかれていない理由は分かりません」と答えた。

ごちそう食べ放題で、何だか楽しそうな取材だと羨ましがられるかもしれないが、ジャーナリストの立場から言えば、これほど隔靴掻痒のイベントはない。

私が泊まっている安ホテルから、トランプ大統領が泊まっているシャングリラホテルまでも、金正恩委員長が泊まっているセントレジスホテルまでも、わずか1㎞くらいしか離れていない。だがその「距離感」たるや、まるで地球の裏側を回って4万㎞もあるようなイメージなのだ。

米朝からやって来た「主役」二人は、まさに「近くて遠い存在」だ。

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