社長が「愛人問題」を片付けず、家族が相続で大モメになった話

新・争族(あらそうぞく)の現場から①
江幡 吉昭 プロフィール

争族は誰も得しない

さて、この一方で、家を追い出された女性事務員はどうなったのでしょうか。

実はこの女性事務員、係争中の先代社長の妹に救いを求めたのです。社長と妹が土地の賃貸料の支払いを巡ってトラブルになったことは前述しましたが、このトラブルの仲裁に入っていた縁で、妹と女性事務員は顔見知りでした。

女性事務員は妹とタッグを組み、会社と相続人(社長の遺族)を提訴してきました。「敵の敵は味方」というやつです。妹は故人である社長の相続人たちに「(社長が生前支払わなかった)土地の賃貸料を払え」と主張、事務員は不当解雇に関して会社を訴えたのでした。

 

当然と言えば当然の主張であり、元はといえば、社長が先送りにしていた問題が、死後に表面化しただけと言えなくもありません。

結局のところすべての問題が解決せず、今も続いています。争続が長期化すると何年もかかることは珍しくありません。そして相続登記もできずに、土地の所有者が故人の名義のままというのも、意外とある話です。

争続の裁判費用もかかりますし、いいことは全くありません。しかし一度掛け違えたボタンは、行くところまでいかないと留まりません。

遺言があれば、話はもっとスムーズだったかもしれない Photo by iStock

想定できる結論はいくつかあります。裁判所による和解勧告により法定相続分通りで分割すること、もしくは妹の持ち分のある土地とそうでない土地を交換して、共有名義から単独名義に一本化するなどが考えられます。

いずれにせよ、このようにこじれて裁判となった場合、短期間で終わるのか、10年程度かかってしまうのかは別にして、基本は「法定相続分で分割」となることが多いです。

しかし年数分の弁護士費用がかかりますし、一番儲かるのは誰か? と言えば、原告でも被告でもない、と思います。裁判で争う前に、親族同士で話し合うことがお金と時間の節約になると個人的には考えています。

そもそもこの問題を起こさないためには、何をすればいいのでしょうか? 

結局のところ問題の先送りは、雪だるま式に問題の規模を大きくしてしまうことがありますので、先に芽を摘んでおくべきでした。

社長が生きている間は、女性事務員と家庭とのパワーバランスはとれていました。しかし社長が亡くなった場合、その均衡が崩れるのはわかっていたはずです。社長の健康状態が日々悪化していたことは家族も承知していました。生きているうちに「愛人問題」も「土地の賃貸料」も、話し合いで片づけておかねばならなかったのです。

相続人間の遺産分割協議がまとまらないこともありますので、やはり遺言を書いておくべきであった……そういうケースでしょう。

最悪の事態を想定しながら、遺言によって生前に「争う族」の芽を摘む……遺される側のためにも、そこまでの努力をすべきなのです。