社長が「愛人問題」を片付けず、家族が相続で大モメになった話

新・争族(あらそうぞく)の現場から①
江幡 吉昭 プロフィール

協議がまとまらず税額軽減を受けられなかった

予想外だったのは、北海道にいる次男が、相続に関して文句を言ってきたことでした。社長は遺言を遺さなかったため、長男と母が主導して遺産分割協議書を作成したのですが、その内容に納得できないというのです。

次男は父所有の土地に関して興味はないものの、その分「現金を多めによこせ」といってきました。しかし父の遺産はほんどが不動産で全体の資産に対して現金はごくわずか。不動産を売却しない限り、弟の要求する現金を用意するなど不可能です。

長男も事情を説明しましたが、次男は「そんな遺産分割協議書では納得できないのでハンコが押せない」の一点張り。結果、遺産分割協議がまとまらないままに、相続発生後1年が経過してしまいました。

 

実は相続税の申告は、相続発生時から10ヵ月以内が基本。期限を過ぎた申告では、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減(1億6000万もしくは法定相続分のどちらか大きい方までの財産を相続により取得した場合、配偶者に相続税はかからないという制度)など、納税者にとって節税になる特例が使えないのです。

通常、こうした話は顧問の税理士などが説明するものなのですが、その会社ではそれがありませんでした。と言いますのは、亡くなる直前に社長が会計顧問と税金の支払いについて揉めてしまい、「お前は俺ら納税者の味方ではなく、税務署の味方なのか!!」と、会計顧問をクビにしてしまっていたのです。

結果、遺言がなかったうえ、遺産分割の協議もまとまらないまま、10ヵ月の期限切れとなりました。

相続税の申告は相続発生から10ヵ月が基本 Photo by iStock

しかし、このまま放置することはできません。既に社長の死から1年が経過しており、早急に相続税申告をしないと延滞税が膨らむからです。結局、遺産分割協議はまとまっていませんが、法定相続分どおりに分割したという内容で申告することになったのです。

特例も使えませんでしたから、相続税もかなり多額になってしまいました。しかも保有財産のほとんどが不動産で、現預金がわずかだったため、税金を支払うために多くの不動産を売却する羽目になってしまいました。まさに弱り目に祟り目です。

こうしてなんとか相続税を払い終えたものの、遺産分割協議は継続中で、相続登記も終了していません。

当然、土地の所有者も、故人である父のままです。(意外と知られていませんが、故人が所有していた不動産は相続人に名義変更せずとも固定資産税のみきちんと払っていれば、現状ではそのままで済んでしまいます)