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丸山ゴンザレスが「危険地帯」への取材に目覚めたきっかけ

なぜ、行く…?

すっかり騙された!?

海外への憧れを最初に駆り立ててくれた本が『世界ケンカ旅』です。

極真空手家の大山倍達さんが、アメリカをはじめタイ、イランなど、世界各国で腕自慢の猛者たちと死闘を繰り広げる旅行記なのですが、2メートル近い巨漢を病院送りにしたり、牛と闘ったりと、今読み返すと、嘘だよね? と突っ込みたくなるエピソードもあるし、コメディとして楽しんでしまう。

けれど、中学生の頃、初めて手にしたとき、世界は未知で、アメリカはいわば月と同じくらい遠い存在だったんです。だから、世界ってこんなところなんだと当時は目を輝かせて真剣に読み、強烈な影響を受けました。

僕自身が極真空手をやっていたのもあると思います。

海外への憧れを募らせ、大学生になると、バックパッカーとしてあちこち放浪します。旅先のインドの安食堂で偶然見つけて読んだのが『もの食う人びと』でした。

インドも舞台として出てくる本なので、誰か日本人が置いていったのでしょう。この本で惹きつけられたのは、食べ物自体に焦点を当てるのではなく、食に関わる人の背景や物語を紡いでいく辺見庸さんの目線や描き方。この点は僕も強い影響を受けていると思います。

同じように、カンボジアに行った時に安宿に置いてあったのが『地雷を踏んだらサヨウナラ』。カンボジアで亡くなった報道写真家・一ノ瀬泰造さんが残した書簡などをまとめた本です。

当時はアンコールワットに、今ほど観光客がいなかった。僕はこの本を持って、最も高い位置にある第三回廊に行き、昼間ずっと読み耽っていました。

カンボジアから日本に帰り、一ノ瀬さんの本の余韻がまだ自分の中に残っている頃、たまたま会った友人が『不肖・宮嶋 死んでもカメラを離しません』を読んでいた。

宮嶋さんは一ノ瀬さんに憧れていたと聞いたので、この本を読んでみると、一瞬で不肖先生のファンになりました。

何が好きって、いちばんは取材のやり方ですね。例えば東京拘置所に勾留中の麻原彰晃を撮影するために、あの手この手を尽くす。取材って何でもアリなんだと学んだし、隙間を狙っていく不肖先生の取材姿勢は、僕も真似させてもらっています。

考古学が思考のベース

大学では考古学を専攻し、大学院まで行きました。考古学を目指すきっかけになったひとつが漫画『MASTER KEATON』です。

今でも影響を受けていて、数年前に「麻薬中毒者の巣窟」と言われるルーマニアのマンホールタウンを取材したのも、この漫画の「ルーマニア編」を思い出したのが発端でした。

 

僕の理解では、考古学というのは「ものさし」を作る学問で、何をはかるかは各々が決めていい。そういう意味でものすごくロマンにあふれたクリエイティブな学問だと思っているし、今でも僕の思考のベースになっています。

また僕の場合は、物自体を収集したいという収集欲もあるんだけれど、それ以上に獲得したいのは、遺跡や遺物、その現場に絡んだエピソードであり物語。こうしたスタンスを教えてくれたのもこの漫画でした。

大学院を出た後、就職しようとするのですが、氷河期で就職先はなく、日雇いバイトで食いつなぐようなどん底の生活を1年半ほど送っていました。

そんな時期によく読んでいたのが『ワセダ三畳青春記』です。この本が良かったのは、探検家の高野秀行さんが海外に行く話ではなく、行く前とか帰ってきてからの、ウダウダしている日常を描いていたから。

三畳一間で繰り広げられるどうしようもない日々がものすごく心地よくて、こういう生き方をしている人もいるんだなと、当時の僕には助けになりました。

そんな頃、ようやく仕事を見つけたと思ったらとんでもないブラック企業。当時、大嫌いだった上司からもらったのが『真剣師 小池重明』です。

何で僕にくれたのかわからなかったのですが、読んでみたら、めちゃくちゃ面白い。

当時僕は、食うか食われるか、というような状態にありました。日払いのバイト代を机に置いて一瞬席を立つや、誰かに持って逃げられるような環境だったから。そういう中で、将棋ギャンブラーの勝負の世界を描いたこの本は響いたんですね。

勝負においては勝ちさえすればいい、と同時に、勝利と人間性はイコールではない、と思えました。

ジャーナリストとして仕事をするようになった今は、取材が真剣勝負の場です。「引き出したい言葉」を引き出せたとき、取材における勝負に勝ったと思う。そうした取材を続けていきたいですね。(取材・文/砂田明子)

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