独自のAI観をもつアップル
この記事を書いているのは2018年6月9日。筆者は現在、アメリカ西海岸にいる。6月に相次いで開かれるテクノロジー系イベントと、それに関連して現地を訪れる人々を取材することが目的だ。
一般の人々からの注目が特に集まっていたのは、アップルの年次開発者会議「WWDC(Worldwide Developers Conference)」だろう。WWDCでは毎年、同社がその年の秋に公開する新製品に用いられる各OSの新バージョンの情報が公開されるためだ。
アップルといえば、いまやiPhoneの会社。新OSの内容がわかれば、新iPhoneの動向もつかめるし、アップルという会社の今後の方向性も見定めることができる。

そこで今回は、発表されたばかりの新OS「iOS12」の機能から、アップルが今後向かうであろう方向性、特にAI(人工知能)に対する姿勢を考えてみたい。
大量のデータに支えられたAIはいまや、GoogleやAmazonをはじめとするテクノロジー・ジャイアントのコアテクノロジーになっている。だが、アップルのAIに対する姿勢は、他の大手IT企業とは異なる部分があり、そこが同社の未来を占ううえで、きわめて重要なポイントだと考えている。

「何が発表されなかったか」に注目すべし!
アップルの新方針を考えるうえで、特に今年は、「何が発表されたか」よりも「何が発表されなかったか」に注目すべきだ。筆者を含め、多くのIT関連ジャーナリストが予想していた発表が、今回は行われなかったからである。
その発表とは、スマートスピーカー「HomePod」のOSや機能に関する拡充だ。
スマートスピーカーとは、Amazonの「Echo」やGoogleの「Google Home」のような、音声アシスタントを使って操作する機器の総称である。AmazonやGoogleは、2016年頃からこのジャンルで激しい競争を繰り返しており、昨秋には日本でも製品発売が行われた。
アップルもまた、昨年のWWDCで「HomePod」を発表し、今年の2月から、アメリカ、イギリス、オーストラリアで出荷を開始しているが、他の大手に比べて2年ほど遅れをとっている状況だ。日本での発売予定は、まだ公表されていない。
そのHomePodの売れ行きが、芳しくない。
理由のひとつは価格面だ。他社が40ドルという安価な機器もラインアップしている一方で、HomePodは349ドルとかなり高い。
加えて、音声アシスタントである「Siri」の機能が、Amazonの「Alexa」やGoogleの「Googleアシスタント」に劣っているうえ、連携できる家電機器の量においても水をあけられているからだ。
そこでアップルは今回、HomePodの機能向上をアピールするために、「audioOS」とよばれるOSとSiriを改良し、低価格版を投入するのでは……と、予想されていたのである。
HomePodにテコ入れをしないのが長期的な展望とは思えない。しかしアップルは今回、音声アシスタントに関して「他社とは同じ方向に行かない」ことを暗に示したのではないか──、筆者はそう考えている。