米朝首脳会談には、実は「トランプの命運」も懸かっている

アメリカ内政、「大揺れ」だった
海野 素央 プロフィール

トランプ大統領の弁護士チームを率いるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長も、モラー氏の捜査を「不公平でいかさまだ」とこき下ろし、「大統領は事情聴取に応じない」と明言しました。そのうえでジュリアーニ氏は、米朝首脳会談を事情聴取拒否の理由に挙げました。

案の定、トランプ大統領も5月29日、自身のツイッターに「北朝鮮の核問題や米国に不利な貿易問題などに集中して、エネルギーをそれらの問題に注ぐ」と投稿し、事情聴取を受け入れない意向を表明しました。米朝首脳会談が、トランプ政権がロシアゲートから言い逃れるための「隠れ蓑」に利用されているわけです。

 

北朝鮮でうやむやにできれば

さらにトランプ氏は6月1日、ホワイトハウスの記者団の前で「首脳会談が1回だけだとは言っていない。複数回行われる」と述べました。仮に米朝首脳会談が複数回行われると、トランプ氏への事情聴取はどんどん先延ばしにされることが明らかです。

モラー氏がロシアゲートの捜査を開始して、早くも1年が経過していますが、捜査資金は米国民の税金ですから、トランプ陣営は捜査を「金食い虫」と批判して、早期に終了するようにますます圧力をかけています。

このまま事情聴取を拒み続けて、捜査を終わらせることができれば、トランプ氏は中間選挙を前に、最大の懸案事項であるロシアゲートを片付けられるのです。

米朝首脳会談を機に、もし北朝鮮が本当に核を放棄し、南北朝鮮の停戦合意が成るとしたら、トランプ氏は「北東アジアに平和をもたらした偉大な大統領」という輝かしい称号を得ることに成功します。ロシアゲートのせいでトランプ氏を支持しない人々の懐疑的な見方も、幾分弱まるでしょう。

日本からは片側しか見えませんが、トランプ政権にとって北朝鮮情勢とロシアゲートは、コインの裏表のごとく密接に関係しているというわけです。

トランプ大統領は、いったんは米朝首脳会談の中止を発表しましたが、その後北朝鮮に対する態度を軟化させています。「もう最大限の圧力という言葉は使いたくない」といった発言は、これまでの強硬姿勢を解き、譲歩したとも受け取れるものでした。

6月1日に金正恩北朝鮮労働党委員長の右腕である金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長をホワイトハウスの執務室に招き入れた際、北朝鮮に対し強硬姿勢を取り続けるマイク・ペンス副大統領とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の姿はありませんでした。ここにも、北朝鮮側に不快な思いをさせないという配慮がにじみ出ています。

金英哲氏とトランプ氏(Photo by gettyimages)

トランプ氏はそれほど、シンガポールでの歴史的な米朝首脳会談の実現に前のめりになっています。ジミー・カーター元大統領は、5月に行われた米ウェブメディア「ポリティコ」のインタビューに「もし北朝鮮の非核化に成功すれば、トランプ氏はノーベル賞を取れる」と述べましたが、トランプ氏自身もおそらく、オバマ前大統領への対抗もあって、ノーベル平和賞を本気で視野に入れているはずです。

そうなれば、ロシアゲートの捜査も吹っ飛ぶことになるでしょう。

それを裏付けるかのように、モラー特別検察官に対するトランプ大統領の攻撃のトーンはますます高くなっています。6月4日には、自身のTwitterに「特別検察官の任命は違憲だ!」と書き込みました。仮に違憲と認められれば、事情聴取を受ける必要がなくなるからです。

さらに驚くべきは、「私は自分自身を恩赦にする絶対的権限を持っている」という投稿です。「大統領が自分に恩赦を与える」ことは可能ですが、トランプ氏が本当に自分に恩赦を出した場合、どのように世論が反応するのかが焦点になります。