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金正恩に「会うまでもなく完全勝利」トランプ流・ガチンコ交渉の鉄則

「エレガント」とさえ言っていい

「1人2役」で動揺を誘う

米国のトランプ大統領は北朝鮮に対して宥和路線に転換したのだろうか。おそらく、そうではない。トランプ氏は「コワモテ(強面)」と「ヤサガタ(優形)」の1人2役を演じているのだ。核とミサイル、拉致問題をめぐる米朝交渉はトランプ主導の形で進んでいる。

トランプ大統領は6月1日、北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長との会談後、記者団に「私は率直に(非核化に向けたプロセスを)急がなくてもいい、と伝えた」と述べた。同時に「最大限の圧力という言葉は使いたくない」とも語った。

さらに、大統領は交渉が1回で終わらず、2回、3回と複数回になる可能性にも言及した。

トランプ発言を受けて、大統領は「短期間の非核化を目指していた路線を転換して、北朝鮮が求める段階的非核化を容認したのではないか」という見方が強まった。たとえば、朝日新聞は3日付朝刊で「開催ありき、非核化後退」と書いている。

私はそう思わない。大統領は方針転換したのではなく、コワモテとヤサガタの1人2役を演じて、交互に使い分けているのである。相手を撹乱し動揺を誘って、自分のペースに引き込むためだ。それがトランプ流の交渉術ではないか。

 

米朝首脳会談に至る経過を振り返ってみよう。そもそも会談を望んだのは北朝鮮側だった。なぜ望んだかといえば、国連決議に基づく経済制裁の効果という側面はもちろんあるが、それだけではない。なにより米国の軍事攻撃を恐れたからだ。

金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は空母3隻を動員した米国の軍事圧力を前にして、本気で「自分が殺られる」と心配した。それが一番の理由である。ちなみに、これは私だけの見方ではない。第1線の軍事関係者たちも同じ見解である。

軍事圧力は「圧力のための圧力」ではない。相手から妥協を引き出すためだ。コワモテ路線は効果を発揮し、相手を対話の場に引き出すことに成功した。

トランプ氏は韓国の特使から米朝首脳会談を望む正恩氏の意向を聞くと、側近たちの懸念を振り払って会談応諾を即答した。それまで大統領は「最大限の圧力」を何度も強調していたから、決断は世界を驚かせた。コワモテから突如、ヤサガタに変身したのだ。

それから会談まで一直線だったかといえば、そうではない。

北朝鮮が米韓合同軍事演習や「非核化に応じなければ、リビアのようになる」と言ったペンス副大統領の発言に反発して、金桂寛(キム・ゲグァン)第1外務次官が会談の「再考」をほのめかすと、トランプ氏は突然、会談中止を表明した。またコワモテである。

驚愕した北朝鮮は狼狽状態に陥った。同じ次官が会談を哀願する談話を発表したかと思えば、正恩氏最側近の金副委員長を米国に派遣した。これをトランプ氏はあたかも副委員長の頭を優しくなでるようにして歓待し、12日の会談開催を表明した。これはヤサガタだ。

トランプ氏はコワモテをヤサガタを交互に使い分けながら、最後は自分が主導権を握った形で会談開催を決めた。会談を開く前から、外交的勝利を収めた形である。

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