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静かなる絶望が広がっている銀行の現場で「いま起きていること」

銀行員は、何のために働いているのか?

著しく低下している米銀の待遇

全国の銀行が加盟する業界団体「全国銀行協会」の会長には、3メガバンクのトップが1年ごとに持ち回りで就任するのが慣例だ。今年度の“銀行業界の顔役”は、みずほ銀行の藤原弘治頭取である。

5月17日に開かれた月に一度の定例記者会見では、その藤原氏に数多くの質問が飛んでいたが、それは当然のなりゆきといえた。なぜならいま、銀行業界は戦後最大級ともいえる厳しい経営環境に晒されているからだ。

昨年11月、みずほフィナンシャルグループが1万9000人の人員削減策を打ち出すなど、いま、メガバンクグループは事業構造改革を迫られている。それに伴って、銀行の営業現場では不安と戸惑いが急速に蔓延しており、それがさらに拡がれば、銀行員のモチベーションとモラールを大きく損なうと危惧されている。

私も藤原氏に問うてみた。

「いま、営業現場で粗利を叩き出している行員たちに対して、どういうことを言える経営者が必要なのか」

 

一般的に銀行のトップは、どんな事態に直面しても冷静な態度を保つ人が多い。そうしたなかで、藤原氏は「熱く語る」珍しいタイプである。彼は間髪入れずこう回答した。

「社員、行員を大事にしない経営者は失格だと思っている。何よりも行員を大事にしないと、顧客、取引先を大事にできない。昨年来の構造改革の意図について、行員としっかりとコミュニケーションすることは非常に大事だ」

彼の回答を聞いて、私もそうあってほしいと痛切に感じた。というのも、定例会見の数日前、米国から帰国したばかりの知人から聞いた米銀の最新事情が、あまりにも衝撃的だったからである。

4月に上梓した『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)では、今後、わが国の銀行業がいかに変化していくのかという視点を軸に、銀行員のあり方などについて、米銀がここ十数年たどった変革の過程を紹介しつつ展望した。ありがたいことに、数多くの方々にお読み頂き、読後の感想も頂戴している。

そのなかには「これからの変化への覚悟ができた」「改めてやる気が起きた」等々、意欲的な声も少なくない。しかしながら、その“逆のケース”も散見された。そうしたさなか、米国の銀行経営者や当局者に数多くの情報源を持つ、先の知人が私に語った内容は、まさに“逆のケース”を想起させるものだった。

「最近になって、米銀はますます、さまざまな仕事のアウトソーシング(外部委託)を進め、コスト削減を図っている。その結果、従業員の厚生面の待遇が著しく低下し、それが従業員のロイヤリティーを押し下げている」

これは有力米銀の元役員の証言だという。この十数年間、有力米銀はITやAIといったデジタル・テクノロジーを駆使しながら、業務の効率化を果たしてきた。それは単なるコスト削減ではなく、顧客サービスの質的改善も伴っていたため、今後、邦銀が大いに参考にすべきアプローチであるといえた。

しかしながら、米銀において飽くなきコスト削減が続いた結果、働く者たちの銀行、仕事への忠誠心が衰えてきているーー元役員はこう嘆いたというのだ。生き残りを賭けた構造改革の隘路と換言してもいい。革新性において米銀から周回遅れのランナーである邦銀は、この教訓をどう生かすかが重要となる。