日本に「超一流」が育ちにくい理由~才能を伸ばす脳の育て方とは

日本人の脳にせまる④
中野 信子 プロフィール

人々が見ているのは自分の「虚像」

この症候群にある人たちは、その人に高い能力があり、それを示す客観的な証拠もあって、誰からも信頼され、業績も十分あるのに、自分はインポスター(うそつき)で成功に値しない、という考えを消し去ることができません。自らが達成した業績を心から肯定することができないのです。

そして、自分の成功は「単なる幸運」や「タイミング」のせい、あるいは「自分に実際より能力があると他人が何らかの原因で信じ込んだ」おかげでたまたま手に入れたものなのだ、と考えてしまいます。

この感情のやっかいな部分は、以下のような点にあると言えるでしょう。第三者的な評価がいかに素晴らしいものであっても、それを無邪気に信じることができないために、インポスター感情を持つ大多数の人は、こんなふうに感じています。

 

「自分では自分の実力を正確に評価することができない。人々が見ているのは自分の『虚像』にすぎない。しかしこの不確かな『虚像』を基盤として自分の生活は成り立っている。収入も、立場も、社会における地位も、家庭も、ひょっとしたら友人関係でさえ、その『虚像』なしには成立しない。だから、たとえウソをついているような苦しさがあったとしても、その『虚像』を、自分からは崩すことができない……」

Photo by iStock

インポスター症候群は、疾患や障害というわけではありません。特定の出来事や外因に対する正常な心の反応だと考えられています。ただスタンダードな定義を持たないため、その対処法については多くの研究者間で合意のある標準的な方法がない状態です。しかし、この症候群にある人は不安やストレス、自尊心の低さ、抑うつ、恥の感覚、適切な信頼関係を築くことへの困難さなどに苦しめられており、対処法の提案をしている人もいます。

インポスター症候群を緩和するには、キャリアの早い段階から、このトピックについて話し合うことが最も有効であると考えられています。インポスター体験をしやすいときに、経験者の助けを借りて自らの状況や感情について話すことができれば、「孤独」や「ウソをついている感じ」による苦痛を和らげることができるでしょう。

通常、インポスター体験を持った大多数の人は、こんな恥ずかしい感情は自分だけが経験するものだと考えているために、他にも同じ体験をする人がいるなどとは思ってもみなかったと言います。潜在的な劣等感が想像力を妨げてしまうのでしょう。

男性が陥りやすいポイント

インポスター症候群は男女問わず見られるものではありますが、女性の場合は勤勉さによって自分の劣等感を克服しようとする傾向が顕著に見られるのと対照的に、男性では、新しい経験に飛び込む勇気に乏しく、探求心に欠け、失敗や間違いを恐れ、他人からの否定的意見を回避する傾向が強くなります。

Photo by iStock

また実際に失敗や間違いを犯した場合には、それが発覚するのを極度に避けようとします。

時には失敗や間違いを犯してしまった自身の「本当の姿」を知られないようにするために、隠蔽工作や記録の改ざんなど、しなくても済むはずの虚構の構築に必死になって手を染めていってしまったりするのです。女性では自分を過度に責めて勤勉さに拍車がかかり、オーバーワーク気味になるのとは対照的な感もあります。ただなぜ男性にこうした傾向が多く見られるのか、性差が生じる理由は今のところよくわかっていません。

優秀な子にウソをつかせてしまう「褒める教育」

前回、子どものもともとの才能――頭の良さ、運動能力、芸術的なセンスなど――を褒めてしまうことで、子どもは失敗を恐れ、困難な課題への挑戦を避けるようになると述べました。さらに驚くべきことに、この操作(無批判に素質を褒める)を受けた子どもの40%が、自分の失敗を隠すためのウソをつくようになる、という研究報告も紹介しました。研究の詳細は前回の記事をご覧ください。

おそらく多くの大人は、良かれと思って、こうした働きかけ(子どもの素質をただ無批判に褒めること)をしてきているだろうと思います。まさか、子どもをスポイルするために、ひたすらその子の素質を褒めて褒め殺しにする、などということを企む大人はいないでしょう。いたとしてもかなり特殊なケースでしょう。

しかし、この「子どもの素質をただ無批判に褒めること」がここまで説明してきたインポスター症候群の原因になる可能性があります。