――金融とか行政とか、そういった分野でもそれが起こっていくということですね。
ですね。
より個人化、分散化が進むといったことは、この先いろんなレイヤー、いろんな領域でますます起こっていくと思います。
価値観が多様化したことで「いろんな働き方があってもいいよね」といういわゆる「意識高い系」の議論がある一方で、企業が正規雇用を減らして非正規雇用をどんどん増やしていくといった話もあるわけですが、これは基本的には同じコインの表と裏なんだと思うんです。
要は、これからますますたくさんの人が、そう望もうが、望まざろうが個人事業主みたいな形で複数のクライアントを相手に業務を掛け持ちしなきゃいけなきゃならなくなるという時代なんです。
そうした時代の要請に応えるソリューションは、格好いい言い方をすると「パラレルキャリアの支援」となるけれど、もう一方で失業対策でもあるんです。
北欧で見たフィンテックは泣く泣くフリーにならざるを得なくなった人に対する一種の支援機構・セーフティネットでもあって、ぼくはそこにとても感心したんですね。
これは北欧に限らない趨勢で、アメリカの統計をみても、2027年には労働人口の過半数はフリーランサーになると見られていて、それに向けたサービスの開発や法整備は着実に進められています。
――そういったさまざまな社会の変化を見ていて、若林さんが今、うんざりすることや、危惧していることはありますか。
そうですねえ。
現代のテクノロジーというものの開発・運営をどこが主体として担ってきたかといえば、最初は国家なんです。
コンピュータも最初は国家プロジェクトとして動き出して、それがやがて民間に落ちていき、ひいては個人のガレージで作れるようになる。
20世紀からいまに至る経済とそれをドライブしてきた科学技術の流れっていうのは、超簡単にいうと、国家主導からグローバル企業主導に移り、この間それが個人に移っていっているという趨勢なんです。
で、その延長でいくと、企業というものが、国なり社会の中枢をなして経済や文化を担っていくという構成自体が崩れていくということになるわけで、それはずっと言われてはきていることなんですが、それは思っているよりはるかに大きな地殻変動なんだという思いを、また最近新たにしてます。
その証左とも言えるのかもしれませんが、最近とりわけ目立って気づくのが、企業ってものが本当にもう情報を取れなくなっているということなんです。
ちょっと前であれば、商社や銀行のような企業は、メディアに出るよりもはるかに前に最先端の情報を持っていたんはずなんですが、今となっては、大手企業になればなるほど「こんなことも知らないのか」という体たらくになっている。
で、おそらく社内でも情報を持ってる人と持ってない人の格差は目に見えて明らかになっているはずで、しかも上位レイヤーに行けばいくほど情報弱者になってるという可能性がかなり高いんですね。
怖くないですか?そういう人たちが「未来戦略」とか言ってるわけですから。うんざりするというか、これは、本当にヤバいなー、と思いながら遠くで見てます。