「子供を持つとキャリアを失う」と思っている女性の大きな勘違い

経営学の実践的アドバイス
国保 祥子 プロフィール

育児と両立しながら働くために

ではどうすればいいのだろうか。

私は、ケースメソッドでマネジメント視点を学ぶ「育休プチMBA」という勉強会の代表も務めている。この勉強会は、育休からの復職をスムーズにするための支援を目的としているが、ゼロ歳児の同伴ができるため育休中でも参加しやすく、毎回満席となり、2014年以来延べ4000人以上が参加している。

勉強会を通じて、参加者は組織全体の視座から自らの業務や役割を捉えることができる思考力(「マネジメント思考」と呼んでいる)を獲得していく。そして「マネジメント思考」を持つことで、時間制約を抱えつつも効率的かつ効果的に業務を遂行することができるようになるのだ。

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「育休“前”より高い評価を受けるようになった」「仕事が楽しくなった」という声も少なくない。この経験から、私は女性の活躍推進は、女性の意欲の問題というより、職場環境や学習機会の問題ではないかと考えるようになったのだ。

B美のように、既に育児をしながら働いている人にとっても、現在の能力の少し上のレベルのストレッチ経験をすることが大事である。ストレッチ経験をすることで成長し、成長することでよりやりがいのある仕事を手掛けるチャンスが巡ってくるからだ。

しかし時短勤務をすることで、周りの配慮や不安から無意識にストレッチ経験を得る機会や、成長のための支援を上司から得る機会を逃しやすくなる。その状態で成長の機会を逃したまま数年経ってしまうと、そのあとのキャリア展望が描きにくくなってしまう。つまり、キャリアのためには、細くでもいいのでストレッチ経験をし続けられる環境に身を置いたほうがいいのだ。

核家族で家事育児を一人でこなしながら、ストレッチ経験につながる業務を担うなんて無理だと思うかもしれない。確かにそのとおり。だが、家事育児の負担が2分の1または3分の2にできるなら話は別だろう。家事育児をパートナーと分担する、パートナーが難しければ便利家電やアウトソースの導入を検討する、などの方法を考えるとよい。

家事代行やベビーシッター、病児保育サービスの導入は確かにお金がかかるが、これを目先のコストととらえるか、将来への投資と捉えるかでその意味は大きく変わってくる。生涯年収を維持するために投資をしていると考えてほしい。

 

A子のように、ライフイベントをこれから迎える立場の人に大事なことは、仕事の経験と信頼の貯金だ。身軽なうちに積み重ねた経験は、制約を抱えてからの財産となるし、あなたの仕事ぶりをちゃんと評価してくれる同僚やお客さんは、あなたのライフステージが変わったからという理由であなたへの信頼を下げたりはしない。こうした仕事上の信頼関係には、身軽でなくなった時にこそとても助けられるはずだ。

だから若いうちにちゃんとストレッチ経験をしておくとよい。それは自分への自信にもつながるだろう。また、上述の通り、育児をしながら仕事をするためには、パートナーの協力は欠かせない。パートナーに自分のキャリアを応援してもらうためのコミュニケーションを意識してみよう。自分らしく働くあなたのことを好きなパートナーなら、きっと協力もしてくれる。

A子やB美のような女性部下を持つ管理職に分かってほしいことは、女性には男性とは少し異なる対応が必要であるということだ。どうしてもライフイベントとキャリア形成時期が重なりやすい女性には、ライフイベントを考慮したキャリア展望を描かせる必要がある。

そして一般的に昇進が所与となっている男性に対して、女性管理職比率が1割程度である我が国においては女性の昇進は「皆が経験するもの」という感覚ではない。

そのため女性に対しては、ライフステージが変わっても大丈夫であるという安心感と、やりがいを感じられるような責任ある業務を同時にかつ若いうちから提供することが必要だ。そうすれば、女性は高い忠誠心を持って組織に貢献してくれる。

何に不安を感じているか、どのようなしくみがあれば安心して業務に打ち込めるかをヒアリングしてほしい。部下の不安を傾聴する、解決策を一緒に考えるというコミュニケーションを通じて、部下は上司のあなたへの信頼感を醸成するはずだ。

そうした信頼感があれば、貴方の提案を受け入れやすくなる。ライフステージにまつわるコミュニケーションはワーキングマザーに限らず、実力不足の若手や介護への不安を抱える中堅にも有効なので、全ての部下を活躍させることができる管理職になれるだろう。そのような管理職は、これからの人材不足社会で高く評価されるはずだ。