娘にダイエットをやめさせようと頑張る「肥満の母」の醜い真意

わが子の健康を奪う親たち(2)
守田 向志 プロフィール

「フィーダー・ママ」の虐待

貴代の母親は料理が上手だが、量を作りすぎるうえに、作ったものを残さず食べるよう娘に強要する。

少しでも残すと、母親は「食べ物を残すような子はいらない!」と言って、しばらく毎週の小遣いをくれなくなるので、貴代は仕方なく毎日無理して食べ、自分の肥満体形を気にしながら過ごしている。一方で母親自身は、体型維持に気を配っていて少量しか食べない。

ある時、貴代は勇気を出して「ダイエットに協力してほしい」と言ってみたが、「あなたは今のほうが可愛い」と母親は言い張り、まったく聞き入れてもらえなかった。

貴代は太り続け、自分の体形を気にするあまり内向的になった。高校生になり、80kgを超えた頃から学校内で誰ともほとんど話さなくなり、高校3年の秋、森の中で首を吊って自ら命を絶った――。

これはある生徒から聞いた実話です。

その生徒は貴代と中学1年の時に同じクラスで親しくしており、母親のことで相談に乗っていたらしく、中学2年になりクラスが分かれてから疎遠になったものの、学校で見かけるたびに太っていく貴代を見て心配していたそうです。

しかし、自殺するとまでは思っていなかったらしく、事件後には強いショックを受けていました。

学校は「受験ノイローゼが原因」と発表したものの、貴代の母親の話は同級生数名が知っており、「どうやら母親が原因」という噂がささやかれたそうです。

子供にお腹一杯食事をとらせると、親は有能感を得られるものです。これはおそらく人間の進化に必要な感情だったと思われます。

しかし、昔よりもはるかに簡単に子供をお腹一杯にできるようになった現代、ただその有能感を得たいがためだけに、子供が嫌がっても無理やり自分が用意した量の食事を食べさせ、子供を太らせる親がいるようです。

このタイプの親は「フィーダー」と呼ばれており、ターゲットになった子供が糖尿病になる等、明らかな健康被害が出ている場合は、虐待の一種と見なされます。

貴代の心の健康を奪い、自殺にまで追いこんだ彼女の母親は、間違いなく虐待レベルの「フィーダー・ママ」だったと言えるでしょう。

 

社会的に見過ごされてきた

他にも「乱用型」の「奪う親」の目的は様々で、子供よりも自分が優れた存在だと感じるため、子供が将来自分から離れにくい状況を作るため、自分の加虐欲求を満たすため、等があります。

実のところ「道連れ型」も「乱用型」の一種です。ただ「道連れ型」は人数が突出して多いと思われるので、別種として考えることにしました。

「道連れ型」「乱用型」の共通点として挙げられるのは、子供の欲求を満たすことより、子供を利用して自分の欲求を満たすことを優先する点です。

それゆえ彼らは、自分の行動のせいで子供の心身の成長にマイナスの影響が出ていても、親の支配的立場を乱用してその行動を執拗に継続し、子供の人生を大きく損なってしまうのです。

このように私が事例を次々と紹介すると、最初は「そんな酷い親がいるなんて信じられない」と言っていた同世代の友人でも、「かつての同級生にそういう育て方をされていた人がいた」と、誰かしら思い当たる場合がほとんどです。

「奪う親」は、突然変異的に出てきたわけでなく、昔からいたタイプの親なのに、今まで社会的に見過ごされてきただけなのです。

ただ、昔はそれほど多くなかったのに、時代の変化により近年急激に増えたのも事実です。

連載3回目では、近年「奪う親」が急増した理由について論じた上で、最もありがちな「奪う親」の事例を紹介しつつ、この問題の解決策を探っていきます。

註:本記事で紹介する事例は、プライバシー保護の観点などから仮名を用い、情報の一部を改変しています。

守田 向志(もりた・こうし)/1981年、福岡県生まれ。2004年、東京大学経済学部卒業後、会社勤務を経て09年に作家デビュー。主な作品に『ミネラル』『もし国会議員100人の日本だったら』『欲望チャッター』などがある。作家業の傍らで塾講師もしており、東大や早慶、中学御三家といった難関校への合格実績を多数持つ。