<ルポ>子供を「肥満体」に育てたがる親たち

わが子の健康を奪う親たち(1)
守田 向志 プロフィール

もちろん肥満体形以外にも、親が意図的に持たせることのできる子供のコンプレックスはあります。

別の例を紹介しましょう。

高校生の聡美は自分の歯並びの悪さを気にしており、学校でも塾でも、できる限りマスクを外そうとしない。

彼女は歯の矯正をしたいのだが、何度頼んでも母親は許してくれない。経済的な理由からではない。家は毎年車を買い換えるほど裕福である。

母親は歯の矯正を許さない理由を「健康に悪いから」と言うが、聡美にはそれが嘘だとわかっている。母親は娘が自分より美しくなるのが嫌なのだ。実際、聡美が一度「歯並びが悪いままだと健康に悪い」という記事を印刷して見せると、母親はヒステリーを起こしてその紙を破き、土下座して謝るまで聡美を完全に無視し続けて、食事すら作ってくれなかった。

 

この一件の後、聡美も仕方なく矯正を諦めることに決めた。

それなのに母親は、家族で食事をしている時、よく聡美の歯並びの悪さを指摘して「ドラキュラみたいね」と笑うのだった――。

聡美は私の指導する生徒で、「歯並びの大切さ」を説明した英文を授業で扱った際に、このエピソードを打ち明けてくれたのですが、憎悪のこもった声で、目に涙を浮かべながら話す彼女を見て、同情を禁じ得ませんでした。

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「奪う親」の定義

ある親を「奪う親」かどうか判断するためには明確な定義が必要になるので、ここで定義付けを行いたいと思います。

「奪う親」は「毒親」の一種なので、まず「毒親」の定義から簡単に確認します。
この言葉の生みの親であるスーザン・フォワードは、著書『毒になる親』の中で、「子供に対するネガティブな行動パターンが執拗に継続し、それが子供の人生を支配するようになってしまう親」を「毒親」と定義づけています。

また彼女は「毒親」の具体例として、虐待あるいはネグレクトを行う親、神様のような親、アルコール中毒の親、コントロールばかりする親(過干渉)等を挙げています。

しかし、この記事で取りあげる「奪う親」は、「毒親」の定義に明らかに含まれるにもかかわらず、「毒になる親」の中で具体例に挙げられなかったため、その存在が今まで社会的に見過ごされてきてしまいました。

それでは、「奪う親」とは一体どのような親なのでしょうか?

私が考えるに、以下の二つの条件を満たせば、その親は「奪う親」だと言えます。

(1)不適切な子育てが原因で生じた見た目のコンプレックスに、子供が悩まされている。

これは「親が子供の健康に気を配り、必要に応じて適切な医療を受けさせていれば、子供はその見た目のコンプレックスを持たずに済んだ」という意味です。

例えば肥満体形の子供の中には、病気が原因で普通の食生活を送っているのに太る子も稀にいるそうです。また、中高生になった子供が親の制止を無視して不健康な食生活を送り、それが原因で太る場合もあります。このような場合、子育てが原因ではありません。

歯並びについても、経済的に苦しい家庭で子供に矯正治療を受けさせるのが難しかったり、親がくり返し矯正を勧めたのに子供が拒否し続けたりした場合は、やはり子育てが原因とは言えません。

そうではなく、子供に強制的に過剰な量を食べさせる、子供の不健康な食生活を放置する、経済的問題がないのに適切な医療を受けさせない等、親の不適切な判断が原因で見た目のコンプレックスが生じ、それで子供が悩むことになれば、この条件は満たされることになります。

尚、子供のコンプレックスを「悩むに値しないレベル」と決めつける親も多くいますが、子供の悩みが明らかに一般性を欠いている場合(その身長の平均体重以下なのに自分は太っていると感じる等)を除き、子供の主観が優先されるものとします。