世界に強烈な衝撃を与えた「This Is America」とは何だったのか

2億回再生、社会問題を痛烈に描いた
柴 那典 プロフィール

エンタテインメントと社会の分断

そして何より、ミュージックビデオが大きな波紋を呼んだ最大の理由は、衝撃的なシーンと謎めいた隠喩に満ちたその内容にあった。

曲はアコースティック・ギターの爽やかな音色と陽気なコーラスから始まる。

身体をくねらせながら登場したチャイルディッシュ・ガンビーノは、銃を懐から取り出し、先ほどまでギターを奏でていた男性(顔には袋が被せられている)を撃ち抜く。

曲調はダークなヒップホップに一転し、彼は「これがアメリカだ。油断するな」とラップする。続いて登場したゴスペル隊も、手渡されたマシンガンで撃ち殺す。

舞台は広い倉庫。チャイルディッシュ・ガンビーノを中心に制服を着た黒人のダンサーたちが笑顔で踊る一方、画面の後方では暴動のような光景が繰り広げられる。何者かに追われ必死の形相で逃げるチャイルディッシュ・ガンビーノの姿でビデオは終わる。

ミュージックビデオの発表からほどなくして、様々なニュースメディアやブログメディアが映像に登場する表現のディティールを解説し、それらがSNSを介して広まった。

Childish Gambino - This Is America

たとえば、彼が銃を構えたポーズが「ミンストレル・ショー」で知られる「ジム・クロウ」のイメージを想起させる、ということ。

たとえば、銃が赤い布に包まれて丁寧に扱われる一方で死体が乱暴に引きずられていくという描写が、銃犯罪が相次ぐ一方で銃を所持する権利がいまだ強く影響するアメリカの社会状況を表している、ということ。

たとえば、黒人教会のゴスペル隊が乱射されるシーンが、2015年6月にサウスカロライナ州チャールストンで起きた銃乱射事件をモチーフにしているのではないか、ということ。

たとえば、ダンサーたちが踊るダンスが「ショキ(Shoki)」や「グワラ・グワラ(Gwara Gwara)」などのアフリカン・ダンスを取り入れたものである、ということ。

ミュージックビデオには、暴動をスマートフォンで撮影する若者や、背後を駆けてゆく白い馬など、何かのメタファーと思わせるイメージが他にも多く登場する。

これらの描写が様々な憶測を呼び、隠されたメッセージを読み解くリスナーが続出したことで、ビデオの訴求力はさらに高まった。

 

このミュージックビデオの監督をつとめたのは、『アトランタ』でも監督をつとめた日本人映像作家のヒロ・ムライだ。プロデューサーとして松任谷由実やYMOを手掛け作曲家としても「翼をください」など数々の名曲を作った村井邦彦の実子である。

東京に生まれLAで育ったヒロ・ムライは映像作家として現地で頭角を現し、2013年からドナルド・グローヴァーの映像作品やチャイルディッシュ・ガンビーノのミュージックビデオの数々を手掛けるパートナー的な存在となっている。

ヒロ・ムライが『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったインタビューによると、彼は『アトランタ』のシーズン2と「This Is America」はどちらも現在の世界で起こっていることへのリアクションであり、そこにはある種のシニシズムのようなものがあると語っている。

映像の中でも、最も強く印象に残るのはダンスと暴力が同じ画面で繰り広げられるシーンだ。後方では車が燃え、人が飛び降り、群衆が逃げ惑っている。

しかし前方で踊るチャイルディッシュ・ガンビーノと笑顔で踊るダンサー達は、そのことに一切気付いていないように見える。

この描写は、いわばエンタテインメントと社会の分断を表しているかのように見える。

ここ数年、アメリカのカルチャーやエンタテインメントの分野においては黒人の躍進が目立っている。そして、ユニークなダンスや振る舞いがインターネットミーム(=ネット上のネタ)となることで、日々バイラル・ヒットが生まれている。

こうした2018年の状況を前に「これがアメリカだ。油断するな」と歌ったのが「This Is America」という曲だ。

単なる社会批判ではなく、その内側により深い洞察と告発が込められていたからこそ、楽曲とミュージックビデオは世界中に広まったと言えるだろう。