崖っぷちの広告業界、変革の鍵は「メディアのベンチャーキャピタル」化

~とあるクリエイターの10年を辿る
三浦 崇宏 プロフィール

3:世は、大航海時代。

マーケティング部門で3年間ほど修行を積んで、コカ・コーラのミネラルウォーター「い・ろ・は・す」の商品開発や、環境省のクールビズ推進運動の仕事に携わり、マーケティングという仕事の、「パワーポイントで作った企画書の通りに企業が動くこと」「人が動くこと」「数字が上がること」の快感を覚え始めた頃に、ぼくは最初の異動をすることになった。2010年のことだ。

人生で二つ目の部署は同じくスタッフ部門だが、「PR戦略局」というところだった。ここでは、テレビCMや新聞広告の企画制作が主業務であるクリエイティブとは異なり、様々なメディアに商品やブランドの情報を取り扱ってもらえるような企画を考えたり、実際にメディアにアプローチすることまで手がけたりする。

博報堂におけるこの部署は、花形ともいえるクリエイティブ部門に対するアンチテーゼとして、ある種の「イケてるならず者集団」みたいな雰囲気があって、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんや、WEBライター/編集者の中川淳一郎さんを輩出した面白いところなのだが、その話はまた今度する。

 

この部署にいて再び、ぼくは不都合な真実に出くわすことになる。

本来の広告代理店の主事業、すなわちメディアビジネスの価値の源泉であるテレビをはじめとしたマスメディアの価値は低下し続けていた。スマホとSNSの一般的な普及により、既存のマスメディアの価値は相対化された。高い金額で広大な土地を買って情報を発信する単純な取引よりも、様々なメディアを組み合わせた統合的なプランニングや、効率よくWEBニュースやSNSで拡散する仕掛けを作ることへの期待が高まっていた。

メディア毎の売り上げでは、ラジオ・新聞・雑誌を超えて、WEBがテレビに次ぐ地位を占めるようになっていた。それは、右から左にマスメディアという土地を動かす単純な取引から、各種のメディアを組み合わせた緻密な設計が必要になることを意味していた。当然、広告代理店の社員の睡眠時間は確実に削られる。考え、手を動かす時間は増えて、一回の取引の利益は減るのだから。

この傾向はご存知の通り、今でもますます拍車がかかっている。地上波のテレビはマスメディアの王様の位置にしがみついてはいるが、ネットフリックス、アベマTVなどWEBを活用した放送が常識になり、2019年には総務省がテレビ番組のネット同時配信を許可するという噂も現実味を帯びてきている。数年前はネットメディアといえばYahoo一択だったが今ではスマートニュース、LINEニュース、ニューズピックス、バズフィード、ハフポスト……毎日毎日新しいメディアが生まれている。

ある商品、ブランド、企業の情報を発信するとき、どのメディアが最もふさわしいのか。その答えは毎日変わっていく時代だ。

これはメディアを土地と捉えるのであれば、かつてヨーロッパの船乗りが新大陸を探しに海へ出た大航海時代をイメージするとわかりやすいのかもしれない。日々、様々な島や新大陸が発見されて、そこには未開の鉱脈があるのだ。旧主国にいて既存の土地を守り抜いているだけでは、早晩、新大陸に逆転されてしまうことは、歴史の教科書を読み直すまでもない。

この時代の変化をキツイと捉えるか、面白いと捉えるかは、一人一人の感性だ。価値が落ちているのは、あくまでも既存のメディアである。SNSやWEBニュースなど新しいメディアが増えていくことは、画期的なメディアの使い方や、ちょっとしたアイディアで、爆発的にバズる可能性が生まれたという意味で、広告代理店、クリエイターたちにとってはチャンスとも言える。

大航海時代は世界史上もっとも様々な科学技術・文化が発展した時代であることを忘れてはならない。旧来の利権にしがみついたままでは、利益率が落ちていくだけだが、アイディアとクリエイティビティで新しいコミュニケーションを発明するという気概さえあれば、これほどワクワクする、やりがいのある時代もない。この時の胸騒ぎは今も、ぼくの中で高鳴り続けている。