崖っぷちの広告業界、変革の鍵は「メディアのベンチャーキャピタル」化

~とあるクリエイターの10年を辿る

広告業界が揺れている。大手広告代理店から独立し、新たな会社を立ち上げる「起業家」たちが次々登場しているのだ。

なかでも注目を集めるのが、博報堂出身の三浦崇宏氏と電通出身の福本龍馬氏が立ち上げた「The Breakthrough Company GO」だ。

従来型の広告代理店ともPR会社とも異なる「事業クリエイティブ」を提唱する集団で、最近では、NTT docomoの新規事業「dカーシェア」や日本テレビの新しいコンテンツビジネス「世界一受けたい授業 THE LIVE〜恐竜に会える夏〜」など話題を呼ぶプロジェクトを多数手がけている。

なぜ彼らは「メディア界の巨人」ともいわれる大手代理店を飛び出したのか。GOの三浦氏が、いま、広告業界に起きている「大きな変化」について詳述する――。

悲観論じゃない。希望の話だ

2018年、AIとブロックチェーンに代表されるテクノロジーの変化。スマホとSNSによるコミュニケーションの変化。そして、働き方改革。誰の目にも明らかなスピードで社会はそのあり方を変え続けている。

そんな変化の中で、僕たちがいる広告業界を、視野が狭い人は『沈みゆく船』だと捉えるけれど、視野が広い人は『大航海時代』だと捉える。自分のいる場所を船と見るか、海と見るかで、解釈も行動もだいぶ変わる。

社会が変化していくとき、一番最初に影響を受けるのが、マーケティングコミュニケーションだ。どうしたらより的確に、より多くの人に、より正確に、そしてできれば安価に、情報を伝えられるかを追求してきた広告代理店、そして、その周辺で右往左往する広告のクリエイターたち。彼らもまた、当然変わろうとしている。いや、変わらないと生き残れない。

ぼくは、2007年に大手広告代理店 博報堂に入社した。10年間の勤務を経て、2017年に独立し、The Breakthrough Company GOという新しい会社を立ち上げた。広告会社で学んだクリエイティブの技術をビジネス全体に活かそうという思いで「事業クリエイティブ」というテーマを掲げている。

The Breakthrough Company GO

博報堂で過ごした10年間の挫折や誤解やちょっとした発見などを振り返りながら、広告業界の未来について、ぼくなりの仮説を立てられたらと思う。ただし、これはよくある広告代理店の悲観論ではない。自らの「故郷」である大手広告代理店への要望であり、もっと言えば希望の話だ。

 

1:クリエイティブは言ってみればサービスです

2007年、ぼくが最初に配属されたのは博報堂のマーケティング部門だった。入社前はクリエイターとしてCMやイベントをプロデュースする仕事を目指していたぼくにとって、当時の、調査が中心のマーケティング部門は地味な裏方にしか見えなかった。

配属初日に、エレベーターで当時の上司に「こんな地味な部署にぼくみたいな注目されている新人が配属されるなんてサプライズ人事ですねぇ」なんて言ってみて白い目で見られた。今思えばよく相手にしてもらえたもんだと思う。

配属されて2、3ヵ月が経った頃、上司のデスクの観葉植物に水をやったり、消費者調査を素早く設計したり、大して新しさもない新商品を新しく感じさせるコンセプト文章を書いたりするのになれ始めた頃、衝撃的な事実を知った。

それまでぼくは、広告代理店の中心的な価値は、自分を含むマーケッターやクリエイターのアイディア・企画にあると信じて疑わなかった。

しかし、実際にはそれらのアイディアやCM表現はほとんどが、数億円、場合によっては数十億円するメディアの広告枠を購入してくれた大口クライアントに対するサービスでしかなかった。コンビニで買えるチョコレートウエハースに封入されている、きらびやかなアニメキャラクターのシールと同じだ。そんな当たり前のことに気づくのに、だいぶ時間がかかった。

クライアントに提出する企画書を深夜までかけて作っている時に、営業のおじさんに言われたのだった。

「お前らも大変だよなぁ……サービスで出しているもののためにずーっと徹夜して……」

この一言は、博報堂でマーケティングをかじって、ちょっといい気になりかけていた若者を正気に戻すのに十分な衝撃だった。

博報堂ではクリエイティブを担当する社員は、営業やメディア部門の人々から一目を置かれる。たまにカンヌとかパタヤとか海外のリゾート地で開催される広告祭に、会社のお金で参加してシャンパンをたらふく飲んで、ステージに上がってトロフィーを受け取ったりする。

人によっては発注先である映像制作の会社やイベント制作の会社の方々から、若いうちから西麻布のお寿司屋さんで接待していただいたりすることもある。そうしてうっかり調子にのるクリエイターのことを「勘違い野郎」と揶揄することもあったけど、これじゃ本当に勘違いでしかない。

ただ、一方で、クリエイターたちは少しでもいい企画、面白い企画、クライアントに貢献できる企画を考えるために、深夜残業、徹夜も厭わないのも事実だ。こういうサービス産業は、文字通りの「サービス残業」でしかない。博報堂のクリエイターが生み出す価値はほとんど、クライアントにとってはメディアビジネス成立のおまけに過ぎなかったのだ。