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『未来の年表』著者が語る、「私の未来を形づくった10冊の本」

河合雅司さんのわが人生最高の10冊

芥川龍之介に衝撃を受けた

「何をするために生まれてきたのか」と、若い頃から自分に問い続けてきました。こうした問いのきっかけになったのが、読書だったんです。

子どもの頃は小児ぜんそくがひどく、学校をよく休みました。そんな時は、よく本を読みましたね。図書室にあるような伝記物や学習図鑑などが中心でした。

中学や高校の頃は、教科書に載るような文学作品が、受験勉強とは関係なしに、純粋に面白かった。

古典では『枕草子』や『伊勢物語』、近代では志賀直哉、井伏鱒二の作品などが印象深いです。中でも衝撃的だったのが、芥川龍之介の『杜子春』。享楽に耽った後、仙人を目指す杜子春は最後、家族のつながりだけは断ち切ることができない。

当時の私なりに、人間の本質みたいなものに触れた気がしました。純文学系の作品は自分の人格形成にすごく影響があったと思います。

星新一は高校時代の愛読書。天才ですよね。発想が柔軟で、今読んでもまったく古びていない。特に『マイ国家』は国家の在り方を短い文章の中で端的に学べ、作品自体が風刺になっている点も素晴らしい。

読書好きなのは本の虫だった父の影響もあります。本当に書斎に住んでいたような人で、本棚には山岡荘八や藤沢周平、池波正太郎などの歴史物が豊富でした。それを手に取り、自然と近現代史に興味が向かいます。

大学後半から就職当初の頃は人生で一番たくさん本を読み、また、後の人生を決定付けるような、最も重要な本と出会った時期でもあります。

その本の一つが、『三国志演義』です。諸葛孔明が好きなんです。彼は軍師ですが、今の言葉でいうと、プロデューサーに近いかもしれない。「天下三分の計」のように、国家の絵を描き、時代をデザインしていく仕事って、なんて面白いんだろうと、感動しました。

英雄として描かれる劉備や関羽、張飛らのようなプレーヤーに、進む道筋を付け、その気にさせながら育てていく。小さい時に体が弱かった自分にとって、活発なヒーローよりブレーンのほうが身近で、魅力的に感じられたこともあります。

サラリーマンの生き様を考える

同時期に読んだ『世に棲む日日』に登場する吉田松陰も、孔明と同じ地平に立つ思想家です。

この本では、前半は吉田松陰、後半は高杉晋作のことが書かれています。松陰はヒーローを導く人である一方で、高杉は先陣を切る、ある種「狂人」、つまり改革者や挑戦者として描かれます。

ある時代や社会において、松陰のように先頭に立つ人のために道を開く仕事もあれば、高杉のように旗を振る役回りもあります。同様に、その後の大久保利通や伊藤博文のように世の中を収束させる人もいます。

 

自分たちが生きる世界を良くし、子孫や次の時代に今をつなげていくために、自分は何をすべきか。社会の中での自己の役割を意識することの大切さを、これらの本から強く学びました。

高杉や松陰と比べると、司馬作品の中でも『竜馬がゆく』の坂本竜馬は、自由奔放です。ただ、江戸時代の常識や規制を打ち破るエネルギーの源泉は、やはり使命感なのかなと思います。三国時代や明治初期など新しい時代を作り上げた人々に学ぶところはとても大きい。

山崎豊子作品も大好きで、同じ頃よく読んでいました。一番は『沈まぬ太陽』。日航機墜落の時、大学の合宿で近くにいたこともあり、同時代の意識と共感も強くあります。

左遷されるなど会社との軋轢がある中で、主人公はどこまでも愚直で不器用。彼を見ていると自分の悩みが小さく感じられる。サラリーマンとして働くことはどういうことなのか、あらためて考えさせられた本です。

働く人の生き様として通じるものがあるのが、『匠の時代』です。高度経済成長期の企業人の商品開発のドラマが書かれ、まさに日本の働く男たちの讃歌といえる内容です。

本は自分を広げてくれる良き友です。ただし、読んで面白いだけではなく、読んだ人が世の中を変えるためのアクションを起こすことで、初めて生きてくる存在でもあると考えます。どんなに小さくてもいい。

受けた影響を元に何かを行うことが、より良い社会のためにつながる。これからも本はそういう存在であり続けてほしい。

私は、新刊の『未来の年表2』をはじめ本の執筆によって人口減少社会に立ち向かうことが、自分の果たす役割と考えています。言論人として、この時代にどう対峙できるのか。

読書で出会った孔明や松陰らの後ろ姿を追い、答えを一生懸命に探し続けていきます。(取材・文/佐藤太志)

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