少子高齢化でも「老後不安ゼロ」シンガポールで見た日本の未来理想図

人口減少に影響されない小国の知恵
花輪 陽子 プロフィール

武器は「賢さ」

シンガポールと日本とで決定的に違うと感じることは「政治のリーダーシップ」です。
一党独裁で首相の権限が非常に強く、初代首相のリー・クアンユーが真っ白のキャンバスにデザインをした国家が現在のシンガポールと言っても過言ではありません。

1965年にマレーシアから追放され、水などの資源もままならないまま独立国家にならざるを得なかったシンガポールを、現在の姿まで導いた建国の父が、リー・クアンユーなのです。

当時のシンガポールの武器は「賢さ」だけ。日本のように海という城壁に守られている国ではないために、マレーシアなど近隣の大国からの安全保障の確保や水や食料もおぼつかない状態から国民を食べさせていく必要がありました。

余裕がない状態からのスタートだったために、マスメディアの管理など表現や言論の自由を抑圧し、徹底的な能力別教育により国家を構築するためのエリート官僚を確保し、生存のために何よりも経済成長を最優先にさせたという事情があります。
その結果、50年間で毎年平均7・8%の経済成長を実現させました。

国を挙げて外資を誘致し、外資主導で雇用創出や技術導入を計る成長スタイルであったこと、国民への社会保障は必要最低限で効率的に行うなど、日本とは大きく異なる政策がとられました。

 

国家予算の約4割は国防と教育

両国の国家予算を見ても、重点の置き所の違いがよく分かります。
シンガポールの国家予算の約4割は「国防」と「教育」なのに対して、日本の国家予算の7割は「社会保障」「地方交付税交付金等(地方自治体の収入の格差を少なくするために交付される資金)」「国債費」の3つで、国防費と教育費はそれぞれ0.5割程度です。

超高齢化社会に突入した日本は、教育という将来への投資よりも、目の前の高齢者の社会保障給付の割合のほうがずっと高くなっているのです。

日本の政治家は派閥の中での影響力を行使して上に上がっていかなければなりません。内閣の支持率が下がると、いつまた選挙になるか分かりません。そうした意味でも選挙権を持つ人数が多い高齢者の声が政治に反映されがちです。

日本も国民の将来の不安を軽減させるような政治的なリーダーシップが必要です。バブル崩壊後、いつまでも足踏みをして前に進まない状態ではいられません。

人口減少に影響されない社会保障

日本では年金や医療保険の保障が手厚いですが、シンガポールでは強制自動天引き貯蓄のようなシステムで、自分自身で将来のお金を貯めていくというしくみになっています。

中央積立基金(CPF)が医療費用、持ち家取得、老後生活に備えた強制貯蓄の役割を果たしています。CPFは個人の口座ですが、雇用主と労働者が共に資金を拠出するというスキームになっており、55歳以下の労働者は収入の20%、雇用者は17%を拠出し、収入の3分の1以上の金額を将来に備えて積み立てるしくみになります。

この制度はよくできており、複利を利用して最も効率的に貯蓄できるようにするために若い頃の拠出率が高くなります。

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CPFは持ち家率向上にも貢献し、現在シンガポールの持ち家率は9割程度にも及びます(日本は約6割)。

家という財産があると愛国心や社会の安定につながり、老後生活の不安も軽減できるという考えから、政府が持ち家を推進しているからです。

対する日本はというと、国家予算の3分の1(32兆円)が社会保障費の支払いに充てられている上に、急速な高齢化に伴い社会保障費は毎年1兆円規模で増大しています。
社会保障費収入は横ばいで推移しているために、その多くは税金と借金で賄われています。
少子高齢化は今後ますます進むために財政が更に深刻化することが予測されています。