「生活保護法改正」は一体誰のため? 5つの問題点を徹底解説

このままでは当事者が…
大西 連 プロフィール

役所に健康管理をされる

4つ目は、被保護者健康管理支援事業の創設である。

「改正案」において、生活保護利用者の「健康の保持及び増進を図るため」に「保健指導、医療の受診の勧奨」などをおこなうものとして「被保護者健康管理支援事業」が盛り込まれた。

これは、後発医薬品の原則義務化と同じで、「改革の工程表」に記載されていた「生活保護受給者に対する健康管理支援の実施等に向けた必要な措置を講ずる」に対応したものであろう。

当然ながらその目的は医療費抑制であろう。

しかし、現行法および現在の運用でも、指導指示等(もちろん、必要最小限の範囲においてであるが)において「検診命令」等がおこなえるわけで、なぜこの事業を創設するのか疑問がある。

新設の59条に「被保護者の年齢別及び地域別の疾病の動向その他」の調査分析についての記述があることから、被保護者の疾病の動向等を把握したいという理由があると考えられるが、この「被保護者健康管理支援事業」は、明らかに事実上の指導指示の権限の強化につながるだろう。

明らかに生活保護利用者のための支援事業ではない。

優良な「施設」を明記

5つ目は、日常生活支援住居施設の創設である。

これは、いわゆる「貧困ビジネス撲滅」のために「優良な施設」を生活保護制度のなかに位置づけ、日常生活の支援のための予算をつけるためのものであろう。

しかし、そもそも、生活保護法30条1項において「生活扶助は、被保護者の居宅にて行うものとする」とあるように、生活保護はアパート等の居宅での保護を原則としている。

いわゆる「施設」での保護は、居宅での生活が難しい場合、本人が希望した場合等、限定的なものとされている。

もちろん、現実的には、特にホームレス状態の人の生活保護等においては、残念ながら都市部などでは公的・民間の施設等での保護が常態化しており、なかには「貧困ビジネス」と呼ばれるような劣悪な施設も存在する。

それに対して、民間のNPO等では、予算がないなかで「優良な施設」を何とか持ち出しに近い形で運営しているところもある。両者を差別化していくことは大切なことであろう。

とはいえ、ある種の「施設」の機能を強化することは、居宅保護の原則にもとるばかりか、本来はアパート生活に移行できる人を安易に施設に留めてしまうリスクを持つ。

そして、この「日常生活支援住居施設」の基準は都道府県が条例で定める(省令で標準は定める)とあり、実際の各自治体での運用等においてどのような基準が定められるかなど明らかになっていない(政省令は国会での議決や承認を必要としない)。

日常生活に困難がある人の生活をどう支援していくのかは大きなテーマだが、現状では「何をもって日常生活に困難があると判断するか」「誰がどういった専門性でそれを判断するか」など、定義が明らかでないものも多い。

居宅生活がおこなえると判断される基準、「日常生活支援住居施設」での居住が妥当と判断される状況というのはどのようなものなのかなど、当事者の視点に立ったときに不明瞭な部分があることは大きな問題である。

障害者の自立生活運動などの歴史を振り返ったときに、日常生活を独力でおこなうことが困難であったとしても、施設でなく地域のなかで生活していくために何が必要か考えてきたことを思うと、生活保護分野では当事者主権とは言えない大きな後退である。

しっぺ返しをくらうのは私たちだ

以上の主に5つの論点について、生活保護家庭の子どもの大学進学への支援以外については、残念ながら当事者のための「改正」とは言えない。

むしろ、財政的な観点、社会保障削減という視点が前面にでていたり、生活保護利用者の健康を「管理」したり、居宅生活の促進というよりは「優良な施設」を位置づけるものであったりと、一歩間違うと(自治体の運用によっては)、生活保護利用者にとって不利益をこうむる「改正」となってしまう。

2000年代以降、日本社会は生活保護をはじめとした社会保障を削減してきた。高齢化が進み、非正規労働者や低所得者が増加するなか、私たちの社会は「生存権」をどのように守っていくのか。安易にその役割を切り縮めると、しっぺ返しをくらうのは私たち自身であろう。

強行採決によるのではなく国会での丁寧な議論を望んでいる。