「徹夜運転」の車に結婚直前の息子を殺された家族の慟哭

なぜこの国では「厳罰化」されないのか
柳原 三佳 プロフィール

居眠り運転、とはされずに…

原形をとどめないほど大きく破損し、なぎ倒された5台のバイク。フロント部分を大破させ、対向車線上に堂々と停止しているワンボックスカー。唖然とした表情で路面に座り込む友人たち……。

楽しみにしていた1泊2日のツーリングが、このようなかたちで突如として行く手を阻まれ、これから大勢の命を救うはずだった一人の青年の人生を強制的に終わらされてしまうなど、いったい誰が予測できただろう。

事故直後の現場写真

事故現場は見通しのよい国道だった。加害者側から見ると緩やかに右カーブを描いているものの、ほぼ直線に近い。しかも、昼間に複数のバイクと車が連なって前から走ってくれば、かなり目立つはずだ。

「加害者の車はなぜ、凹凸のある黄色のセンターラインを越えながら、それに気づきもせず対向車線を百数十メートルも進んだのか? いったいどんな運転をしていたのか……」
緒方さんは理解できなかった。

事故直後の俯瞰写真

加害者が徹夜でドライブをしていたという事実を緒方さんが初めて知ったのは、事故から数か月後のことだった。

「加害者は事故前日の朝5時に起床し、終日仕事をしたそうです。そしてその夜、乗鞍岳へ日の出を見に行こうということになって家族ら7名とレンタカーを借り、午後10時に愛知県の安城市を出発。そのまま徹夜でドライブをしながら乗鞍岳に向かい、事故当日の早朝、日の出を見て戻る途中だったのです。いずれにせよ、約32時間、まともな睡眠を取らずに行動していたことは明らかでした」

加害者は「居眠り運転」だった可能性が高いのではないか? 緒方さんは、そう直感した。しかし、刑事裁判の判決文には次のように明記されていた。

『被告人の一方的過失による事案とはいえ、その過失内容は「わき見」という前方不注視であり、酒気帯びや高速度走行等の反規範的な態様によるものではないこと……(中略)これら諸事情を総合すると、本件においては被告人を実刑に処すべきであるとまで断ずることはできない。』(名古屋地方裁判所岡崎支部・岩井隆義裁判官)

「わき見運転」と認定された加害者には、執行猶予5年の付いた禁固刑が言い渡されたのだった。遺族にとって、それはあまりに軽すぎる刑だった。

緒方さんの自宅に、禎三さんの「医師免許証」が届いたのは、葬儀が終わってからのことだった。