稲田元大臣をすっ飛ばした防衛省報告書の「不自然さ」

これでは日大・モリカケと一緒だ
布施 祐仁 プロフィール

そもそもの疑問として、稲田氏は本当にイラク日報の探索を指示したのだろうかと私は思っている。統幕職員Aのメールにある「イラクの日報は本当にないのか?」という言葉だけで、明確に指示があったかどうかを判断するのは困難だ。

ある防衛省の関係者によれば、Aが当初、「再探索の指示を受けたという認識はない」と証言していたという噂が省内に流れているという。そうだとすれば、メールの文面のあいまいさも納得がいく。

今回の防衛省の調査は指示があったことを前提として行われており、当事者である稲田氏にはヒアリング等を行っていない。また、辰巳総括官の指示を誰がAに伝えたのかも報告書では明らかにされておらず、調査としては不十分だ。

南スーダン日報問題でもイラク日報問題でも、自分は最後まで何も知らされていなかった、自分は「被害者」なのだというのが稲田氏の一貫したスタンスだが、本当にそうだったのだろうか。真相が究明されたといい難い。

トップの関与をうやむやにしようとするから、いつまで経っても真相が究明されないのだ。今回の「不自然」な報告書で納得しろというのは傲慢な話だ。森友・加計問題や日大アメフト部の反則問題もそうだが、トップの関与をうやむやにしたままでの「トカゲの尻尾切り」での幕引きは許されない。

 

万一殉職者が出た場合…

実は、約10年前から、イラク派遣の検証をしたいと思い、派遣部隊が現地での活動を記録・報告した文書を情報公開請求してきた。しかし、これまで日報が開示されたことは一度もない。

今回、防衛省が公表したイラク日報の中には、バグダッドの多国籍軍司令部に派遣された「連絡班」の報告書や隊員の所感を記した日誌も含まれていた。これらも過去に情報公開請求したが、開示されなかった。おそらく、南スーダン日報と同様、当時から隠蔽されていたと思われる。

今さら、これらの隠蔽についても引っ張り出して調査しろと言うつもりはない。調査しても、南スーダン日報と同じ構図が明らかになるだけだろう。イラク派遣は「非戦闘地域」が活動の要件だったが、公表された日報に記されていたように自衛隊の活動地域でも多国籍軍と地元武装勢力の「戦闘」が発生していた。

日本政府は派遣を憲法9条に抵触しないと説明するために、「非戦闘地域」という仮想空間を作り上げたが、現実のイラクにそんな都合の良い空間は存在しなかったのである。この矛盾を覆い隠すために、日報は隠蔽されたのだと思う。

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いま重要なのは再発防止だ。昨年、海外派遣の日報の保存期間は、いつでも廃棄できるために隠蔽に悪用されてきた「1年未満」の運用から「10年」に改められた。これで、今後は日報が隠蔽されることはなくなるだろう。

気になるのは、日報をはじめ自衛隊の海外派遣の報告書類を一般の行政文書と区別し、20~30年間は全文不開示として、その後開示する運用にすべきだという主張が、自民党の一部から出ていることである。

しかし、現在も、隊員の安全にかかわる情報や公開すると作戦に支障が出かねない情報、他国から公開しないことを前提に入手した情報などは情報公開法上の不開示情報に当たるとして「黒塗り」にされている。これ以上、何を伏せる必要があるというのか。

それよりも、現地での「戦闘」の発生など派遣要件にかかわる情報や派遣隊員の安全・リスクに関する情報が、これまで国会にすら十分に公開されてこなかったという問題を検証するべきではないか。

適切な情報公開がなければ、国会によるシビリアンコントロールは機能しない。南スーダンのジュバやイラクのサマーワでどのような戦闘が発生し、自衛隊がどのような状況に置かれたのかは、「法的な意味での戦闘」だったかどうかは別にして、ただちに報告されるべきであった。

国の命令で派遣している以上、万が一、自衛隊に殉職者が出た場合、国民やその代表者である国会議員が「そんな危険な場所だったとは知らなかった」では済まないのだ。