小泉純一郎と野党の脱原発連合を演出した「角栄の愛弟子」

新潟県知事選・深層レポート
常井 健一 プロフィール

マスコミも気づかなかった「キーマン」

池田の隣にはダークスーツの男が座っていた。80年代の刑事ドラマに出てきそうな風貌の「昭和の二枚目」は、知事候補の女と一緒になって小泉節に何度も頷いていた。

「あの人、誰だっけ?」

取材している報道陣の間からはこんなヒソヒソ声が漏れ聞こえた。「田中角栄の愛弟子」であり、かつては「小泉の盟友」でもあったそのベテラン衆院議員こそが「本日のキーマン」なのだが、彼の存在に気づき、翌日の紙面で報じた全国紙は皆無だった。

講演会終了直後、小泉は楽屋で前出の池田と面会する約束をしていた。旧民進系の菊田真紀子(衆院新潟4区選出)も池田陣営の選対本部長として同席したが、小泉は2人のことをよく知らない。実際、挨拶を交わしても、会話が続かなかった。3人は狭い小部屋で20人ほどの報道陣に囲まれたまま、キョトンと口を丸くした。

 

気まずい雰囲気を察した報道陣から、初対面の池田についての印象を尋ねられると、小泉は薄ら笑いを浮かべながらこう答えた。

「候補者だからね、頑張ってもらいたい。私は選挙自体には一切かかわらない。今、飴舐めているから(笑)」「(今回の講演会は)1年前に決まっていたんだ」

いつになく歯切れが悪く、言外に「やらされ感」を漂わせた小泉。野党陣営が喉から手が出るほど欲しい「応援する」の一言はなかなか出てこなかった。

それも無理はない。

小泉は、2014年の東京都知事選で自らが全面的に応援した元首相の細川護熙が惨敗して以降、一切の選挙応援を拒んできた。首相時代の郵政選挙さながら、「原発ゼロ」のワンイシューで民意を問うシナリオを描く小泉からすれば、多種多様な争点が存在する地方の首長選で特定の候補に肩入れしたくない。2度目の「土」が付いてしまえば、自らの運動に対する説得力を失いかねないからだ。

報道陣から幾度となく「支援表明」を促されても、小泉はこう語るのがやっとだった。

「新潟には原発があるんだから、ただちに廃炉、やめるべきだよ。そういう候補に当選してもらいたいな」

まるで小泉の記者会見のようになってしまった「重大会談」は、たったの5分で終わった。それでも、池田陣営を固める野党関係者たちは、告示前日に「元自民党総裁」とがっちり握手する場面を作り込めたことに満足していた。彼らの思惑通り、朝日新聞が「原発推進論者は当選させない」と見出しを打つなど、小泉と野党との呉越同舟の図式は新聞やテレビで大きく報じられた。

小泉が池田との面会に渋々応じたのは、元自民党幹事長の山﨑拓が「仲介」に入ったからだ。大型連休の直後に池田の出馬意向が明るみに出た頃、「新潟県内で講演するついでに、会ってくれないか」という感じで直接頼まれた。「原発ゼロを掲げているし、告示前だから、まあ、会うくらいはいいだろう」。そんな考えもあって、小泉は盟友のメンツを守ることにした。

山﨑と言えば、小泉と同じ2009年9月に政界を引退しているが、現職時代に率いた派閥「近未来政治研究会」(現・石原派)には今も大きな影響力を及ぼしている。最近は石破茂に急接近し、9月の自民党総裁選を視野に水面下で動く姿が再三報じられている。

新潟県知事選で自民党と公明党が支持する前海上保安庁次長の花角英世(60)が負ければ、安倍三選に黄色信号が灯る――。永田町ではこうした見立てが常識になりつつある。だが、元自民党総裁が「反安倍候補」と握手するという挑発的すぎるシーンは、さすがに山﨑一人でプロデュースされたものではなかった。

実は、山﨑の背後には本当の仕掛け人がいた。それが前出の「昭和の二枚目」、中村喜四郎である。

小泉は中村と四半世紀ぶりに握手した(撮影:筆者)